余命宣告された心境

死の受容5段階

精神科医キューブラー・ロスの提唱した死の受容五段階のモデルというものがあります。

死の受容五段階モデルとは、人は死を告知されると、以下の①から⑤の段階を経るというものです。

1.否認

「そんなはずはない」と現実を受け止められず否定する

2.怒り

「なぜ自分が」と自分に起こった不幸に怒りを覚える

3.取引

「これからは世のため人のために生きるので助けてください」など神や天に対し取引をもちかける

4.抑うつ

死に対して絶望しふさぎ込む

5.受容

最後に現実を死を受け入れる

しかし必ずしもこのような5段階を経るとは限りません。

余命宣告された心境

僕の場合は余命宣告された瞬間一気に受容しました。

受容できた要因が二つありました。

ひとつは医師という職業柄、死が身近な存在であったことがあると思います。多くの人々の死を見つめることで、死はいつ誰にでも訪れ得るものだと心のどこかで覚悟ができていました。

ですから余命宣告された際、自分にもその時がきたのだとすんなり受け入れることができました。

もうひとつの要因は、常に全力で生きてきたので自分の人生に悔いはないと思えたことです。

しかし家族の泣き崩れる姿を目の当たりにして、自分の人生は自分一人のものではないことに今更ながら気付きました。妻と6歳の息子、4歳の娘を残して逝くわけにはいかないと感じました。もし今この世を去ってしまっては、子供たちの記憶にすら残らないかもしれないと思うと、まだ死ぬわけにはいかないと強く決意できました。

また死を受容したことで生の輝きに改めて気付くことができました。この世に生を受け、望まずとも当たり前のように生きていたことが決して当たり前ではないと気付いたことで、生まれて初めて、心の底から「生きたい」という思いが生まれ、このまま黙って死を待つわけにはいかないと思いはじめました。

これは受容の先にある、再び生きたいと願う「再生」とも呼ぶべき段階です。

一度死を受容したことで、生というものをはじめて認識し、そこから再び本当の生が始まるのです。

この再生なくして治癒に至ることはできません。再生に至るための第一の秘訣は生きるんだと強く願うことです。

生きる理由は個人的な願望でも良いです。

旅行したい場所がある、やってみたいことがある、会いたい人がいる、叶えたい夢がある…

理由は何でも良いので、まずは生きることを望むことが大切です。

実際は無理に生きる願望を見つけようとせずとも、生の輝きに気付くと、自分の生きている世界がいかに素晴らしいものであるかを感じられるようになり、この世界でもっと生きたいと自然に感じられるようになります。

普段何気なく見ていたものが、愛おしく、輝いて見えるようになり、空や風、木々や草花、街ゆく見知らぬ人々など五感に感じられるすべてが愛おしく感じられるようになります。

すると自分の中から周囲に対する温かい感情が湧きだし、感謝の気持ちで満たされ、恐れ、怒り、不安などの負の感情が浄化されてしまいます。

やがて生きている世界の素晴らしさに圧倒され、自然と涙が溢れてくることもあります。

この精神状態に達すると、生命力にスイッチが入り、心身によい影響があらわれはじめます。

心のセンサーが敏感になり、今まであたりまえだと思っていたものにたいして愛、感謝の気持ちが持てるようになります。段落

このような心もちになると免疫細胞が増殖し活動が活発になり、治癒力が増すことが医学的にも解明されています。