ガン治療革命を起こしたオプジーボ

はじめに

あなたの体の中ではガン細胞が毎日のように作り出されています。

それにも関わらずガンにならずに済んでいるのは、免疫細胞がガン細胞を排除してくれているからです。

しかしガン細胞は免疫細胞にブレーキをかけることができます。

その結果、ガン細胞が増え続けるとガンになってしまいます。

ガン細胞によるブレーキを外せれば、免疫細胞によってガン細胞を排除することができるようになります。

実はガン細胞のブレーキを外す薬があります。

その薬を免疫チェックポイント阻害剤(薬剤名ニボルマブ/商品名オプジーボ)といいます。

オプジーボを投与すると、免疫細胞がガン細胞を攻撃できるようになります。

その結果、ガン細胞が体内から排除されます。

従来の抗ガン剤は正常組織ごとガン細胞を破壊するものでした。そのため副作用が非常に強烈でした。

しかしオプジーボは免疫細胞の働きをサポートするだけなので、副作用を劇的に減らすことができます。

オプジーボのように免疫細胞に働きかける治療を免疫療法と呼びます。

免疫療法は、元々僕たちが持っている免疫力を利用する、いわば自然治癒力を生かした治療法です。

少ない副作用で最大限の効果が期待できるので、医学界で注目を集めています。

今回は免疫療法のなかでも、いち早く承認され使われるようになったオプジーボを中心に解説します。

オプジーボの作用

免疫細胞には元々、免疫作用が過剰になりすぎて体を傷つけないようにするため、ブレーキが存在しています。

免疫作用が過剰になりすぎると、免疫細胞が自分自身を攻撃してしまいます。

ブレーキがきかないと免疫作用が過剰になり、アレルギー(花粉症や喘息など)や自己免疫疾患(関節リウマチなどの膠原病、潰瘍性大腸炎、ネフローゼ症候群など)になってしまいます。

ガン細胞は生存能力が高い細胞です。ガン細胞は生存するために免疫細胞にブレーキをかけ、免疫細胞による攻撃から逃れ生存しようとします。

免疫細胞の表面にあるブレーキのことを免疫チェックポイントと呼びます。ガン細胞は免疫細胞のチェックポイントをONにすることで生存・増殖をします。

ブレーキ、つまり免疫チェックポイントを外す薬を免疫チェックポイント阻害剤と呼びます。


免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントにピンポイントで働きかけブレーキをOFFにします。その結果、免疫のブレーキが解除され、免疫細胞の働きが活性化します。

さらに詳しく説明します。

MSD株式会社「患者向けインフォームドコンセント資料」より

免疫細胞のひとつにT細胞があります。このT細胞上にあるタンパク質PD-1に、ガン細胞が出すタンパク質PD-L1が結合すると、T細胞の活性が抑えられ免疫にブレーキがかかります。

PD-1を発見したのは京都大学特別教授の本庶佑先生です。本庶先生はPD-1発見の功績を認められ、2018年にノーベル医学・生理学賞の受賞しました。

オプシーボはPD-1に結合する薬です。そのため薬の分類としては抗PD-1抗体薬と呼ばれるグループに分類されます。

PD-L1がPD-1に結合してしまう前に他の物質を結合させてしまえば、免疫のブレーキがかからずにすみます。

そこで開発されたのがオプジーボです。オプジーボはPD-1に結合するので抗PD-1抗体薬と呼ばれます。
オプジーボは、2014年に日本において世界で最初い承認されました。

さらにガン細胞側のPD-L1に結合して、T細胞のPD-1と結合させないようにする抗PD-L1抗体薬も、日本で2018年に3剤承認されました。

このように現在免疫系に働きかかる治療薬が次々と開発され、ガン治療が劇的に変化しています。

免疫チェックポイント阻害薬そのものは、ガン細胞を直接殺すことはありませんが、免疫を高めることでがん細胞を間接的に減らすため、がんの種類に限らず効果があると期待されています。
また、薬を使い終わった後もガンが大きくならない方や長期生存できる方が多くみられるのも特徴です。

その理由は、免疫チェックポイント阻害薬がいったんT細胞などに働きかけると、免疫が活性化した状態が続き、ガン細胞を間接的に排除する効果が持続するためだと考えられています。

オプジーボの課題

オプジーボはガン治療への期待が高いですが、効果のない人も多いのが欠点です。

オプジーボだけでの有効性は20%程度とされています。

腫瘍の周囲に集まっているT細胞が少なめの人には効果が低いことが原因のひとつだと考えられています。

しかし他の薬剤と併用することで60%程度まで効果が上がるため、ガンの種類によって様々な組み合わせが行われるようになっています。

オプジーボは、前述したように免疫系を活発にします。その結果、自分の体を攻撃する自己免疫疾患が起こること可能性があります。自己免疫疾患は全身に様々な症状が出現し、個人差が大きいのが特徴です。

また使用直後の発熱、悪寒、かゆみ、発疹、血圧の上昇・低下、呼吸困難などの反応が起こることもあります。とくに初回や2回目の投与では注意が必要です。


オプジーボを投与しても、ガン細胞にPD-L1が発現していな段階では有効性が低いため、ガンの種類による使い分けが課題です。
有効性を上げるために、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法、抗ガン剤、分子標的薬や放射線療法との併用療法も進んでいます。

免疫チェックポイント阻害剤のこれから

免疫チェックポイント阻害剤の適応となる患者さんの範囲は徐々に広がっています。

2018年には悪性黒色腫腎細胞ガンで、抗CTLA-4抗体薬イピリムマブと抗PD-1抗体薬ニボルマブの免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法が承認されました。
手術での切除が難しい非小細胞肺ガンでは、分子標的薬の効果を調べる遺伝子検査で遺伝子の変異がないとわかった場合に、抗PD-1抗体薬や抗PD-L1抗体薬の単剤使用のほか、抗PD-1抗体薬ペムブロリズマブと抗がん剤抗PD-L1抗体薬アテゾリズマブと抗がん剤や分子標的薬の併用療法、化学放射線療法を受けた患者さんに対する抗PD-L1抗体薬デュルバルマブの使用など選択肢が増えました。

免疫チェックポイント阻害薬は、これまでガンの治療に用いられてきた抗ガン剤や分子標的薬とは異なる仕組みで作用します。ガン治療を劇的に変化させています。

ほとんどのガンが、そう遠くない未来、治る病気になっていく可能性が見えてきました。