
高齢化社会において解決すべき健康問題として、健康寿命を延ばすというものがあります。
健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいいます。
2016年の健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳となっています。
いっぽう平均寿命とは一般的に寿命と呼ばれるもので、「0歳における平均余命」のことを指します。
2016年の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳です
平均寿命と健康寿命の差は日常生活に制限のある「不健康な期間」を意味します。
不健康な期間は2016年では男性8.84年、女性12.35年となっています。

今後医療レベルの向上などの影響で平均寿命はますます延びると考えられています。しかし健康寿命が延びなければ、不健康な期間が増大してしまいます。
厚生労働省が発表している『平成28年国民生活基礎調査』によると、介護が必要になった主な原因は「認知症」が18.7%と最も多く、次いで、「脳血管疾患(脳卒中)」15.1%、「高齢による衰弱」13.8%、「骨折・転倒」12.5%となっています。
日本では65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。
健康寿命を延ばすには認知症の予防が重要です。
認知症とは
認知症とは、脳の病気や障害などによって認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。
認知機能とは、記憶・判断・計算・理解・学習・思考・言語などを含む脳の機能のことです。
このような認知機能が低下した状態が認知症です。
認知症にはいくつかの種類があります。
アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多く、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきる認知症です。症状はもの忘れで発症することが多く、ゆっくりと進行します。
血管性認知症
二番目に多いタイプです。脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因の認知症です。
障害された脳の部位によって症状が異なります。認知機能が障害されている部分と正常に保たれている部分があるため、いわゆる「まだら認知症」となります。
症状はゆっくり進行することもあれば、階段状に急速に進む場合もあります。
レビー小体型認知症
認知症に加えて、現実には見えないものが見える幻視や、手足が震えたり歩幅が小刻みになって転びやすくなる症状(パーキンソン症状)があらわれるの認知症です。
前頭側頭型認知症
スムーズに言葉が出てこない・言い間違いが多い、感情の抑制がきかなくなる、社会のルールを守れなくなるといった症状があらわれる認知症です。
早期発見するには
認知症のように日常生活に支障はきたさないものの、認知機能が低下し正常とはいえない状態のことを「軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)」と言います。
MCIになると約半数は5年以内に認知症に移行するといわれています。
この段階から予防を開始することが認知症の進行を遅らせることにつながります。
認知症に早い段階で気付くためには、認知症のサインを知っておくことが重要です。
認知症のサインには
- 中核症状(記憶力や判断力の低下)
- 行動・心理症状
の2つに大きく分かれます。
中核症状
- 物忘れ
- 時間や場所が分からなくなる
- 理解力や判断力が低下する
- 仕事や家事、趣味ができなくなる
など。
行動・心理症状
- 不安を感じやくなったり恐がることが増える
- イライラして怒りっぽくなる
- 気分が沈みがちになる
- 好きだったものに興味を示さなくなる
- 誰もいないのに誰かいるという
- 物を盗られたと騒ぐ
など。
物忘れと認知症の境界
しかし中核症状や行動・心理症状は、認知症でなくても年をとれば誰しも認めます。
そこであくまでも目安ですが、認知症を疑う具体的な内容を示します。
日常生活に支障が出る記憶障害
人の名前を思い出せない程度は物忘れですが、大切な約束を忘れたり自分に起こった体験を忘れている場合は認知症が疑われます。
自覚がない
物忘れしていること自体を自分では気付かず、話のつじつまを合わせようとする場合は認知症が疑われます。
全体を忘れている
自分のやったことの一部だけを忘れている場合は単なる物忘れですが、経験そのものを忘れている場合は認知症が疑われます。
加齢によるもの忘れ | 認知症によるもの忘れ | |
---|---|---|
体験したこと | 一部を忘れる (例:朝ごはんのメニュー) | すべてを忘れている (例:朝ごはんを食べたこと自体) |
学習能力 | 維持されている | 新しいことを覚えられない |
もの忘れの自覚 | ある | なくなる |
探し物に対して | (自分で)努力して見つけられる | いつも探し物をしている 誰かが盗ったなどと、他人のせいにすることがある |
日常生活への支障 | ない | ある |
症状の進行 | 極めて徐々にしか進行しない | 進行する |
「もし、家族や自分が認知症になったら知っておきたい認知症のキホン」(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html)より抜粋
認知症予防
ではどのように予防すればいいのでしょうか?
脳に必要な栄養素である魚油に多く含まれるEPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸、ジオスゲニン、葉酸、ファイトケミカルを補うことが認知症予防につながります。
オメガ3脂肪酸
魚、なかでも秋刀魚(さんま)、鯵(あじ)、鰯(いわし)、鯖(さば)などの青魚に多く含まれます。記憶力や判断力の向上、認知症予防、特にアルツハイマー病発症予防に有効です。
ジオスゲニン
山芋に多く含まれる成分です。別名『若返りホルモン』と呼ばれるDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)と類似した構造をしており、同様の効果が期待できます。
DHEAはアルツハイマー型認知症を予防する効果が確認されているほか、
- 免疫力を高め、炎症を抑えたり腫瘍を予防する
- インスリンの働きを助け、糖尿病を予防する
- 筋力を維持し、代謝を高めて体脂肪を減らす
- 動脈硬化を予防する
- 脂質異常症を予防する
- ストレスを緩和し、意欲を向上させる
といった効果もあります。
フェルラ酸
フェルラ酸は天然ポリフェノールの一種で抗酸化作用があります。抗酸化作用があると老化を防ぐことができます。
研究によって神経細胞の成長を促すことが証明されており、考える力をサポートします。
アルツハイマー病を予防する効果も期待できます。

葉酸
緑黄色野菜ではほうれん草、小松菜、菜の花。豆類は納豆、枝豆、空豆。果実類はいちご、キウイ、オレンジに多く含まれ、悪玉アミノ酸であるホモシステインを減少させ、認知症を予防します。
フィトケミカル
ファイトケミカル(phytochemical)とは、植物が紫外線や昆虫など有害なものから体を守るために作りだされた色素や香り、辛味、ネバネバなどの成分のことです。フィトケミカルは酸化を防ぎ、老化やさまざまな病気のリスクを低下させます。
フィトケミカルの代表選手はポリフェノールです。赤ワインやカカオ、コーヒー、ブルーベリーに多く含まれています。
カレー粉に含まれているウコンには、クルクミンというファイトケミカルが含まれています。Yangらによる報告によると、17ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウスにクルクミン500ppmを混ぜた餌を与え5ヶ月間飼育したところ、22ヶ月齢時のマウスの老人斑面積は17ヶ月齢時のマウスの老人斑面積に比べ、30%も減少したとのことです。
※老人斑とは加齢に伴って脳にみられる蛋白質の沈着で、アルツハイマー型認知症の方の脳に多く認めます。
今できることをしましょう!
残念ながら認知症に対する特効薬は現在のところ開発されていません。
だからといって過度に恐れていては今を楽しむことはできません。
恐れは免疫力を低下させますし、恐れている現実を引き寄せてしまいます。
ここで解説した食事を摂り、「今できることをしているから大丈夫!」と安心し、日々を楽しむことが一番の認知症予防になります!
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