【医師解説】アルツハイマー病の原因

アルツハイマー病とはドイツの精神科医、アルツハイマー博士により1905年に報告された進行性の記憶障害を伴う認知症のことです。

症状としては記憶、思考、判断、学習能力などの機能が、ゆっくりと進行性に低下します。

認知症高齢者の60~80%では、アルツハイマー病が原因のアルツハイマー型認知症です。

主に中高年で発症し、はじめは物忘れや迷子になるなどの軽い症状からはじまりますが、徐々に進行して生活に支障を来すようになり、最終的には意思疎通すら困難になってしまいます。

アルツハイマー病の原因はまだはっきりとは分かっていませんが、現時点で原因として考えられていることを解説していきます

脳の変化

アルツハイマー病の人の脳を調べると、あちこちで神経細胞が破壊され異常な状態になっているのが確認されます。

具体的な異常とは以下の通りです。

  • アミロイドβタンパク質(※1)の沈着:アミロイドβ(ベータ)という異常なタンパク質が蓄積しているのが確認できます。これは何かしらかの原因でアミロイドβを取り除くことができなくなることが原因と考えられています。

(※1)アミロイドβタンパク質

《amyloid beta protein》たんぱく質の一種。脳内で過剰に生産され蓄積すると、老人斑とよばれる凝集体が形成される。アルツハイマー型認知症の患者の脳に多数の老人斑がみられることから、アルツハイマー病の原因物質と考えられている。アミロイドβ。βアミロイド蛋白質。Aβ(amyloid beta protein)。
[補説]アミロイドβたんぱく質は39〜43個のアミノ酸残基から構成されるペプチドで、42または43個のアミノ酸残基からなるもの(Aβ42・Aβ43)が神経細胞に対して強い毒性をもつ。アミロイドβの「β」は、このたんぱく質がβシート構造を形成していることから。

デジタル大辞泉から引用
  • 老人斑の増加:死滅した神経細胞がアミロイドβタンパク質の周囲に蓄積して見られる脳のシミが多く見られます。
  • タウタンパク質の増加中枢神経細胞に存在する微小管結合たんぱく質の一つであるタウタンパク質が増加しています
  • 神経原線維変化:タウタンパク質が過剰にリン酸化されて神経細胞内に蓄積して見られる神経細胞内部の糸くずのような変化を認めます。

これらの異常は、アルツハイマー病でなくても高齢になればいくらかは出現するものですが、アルツハイマー病では多く認めます。脳組織の異常がどのようにアルツハイマー病を引き起こすのかはよく分かっていません。

おそらくアミロイドβタンパク質やタウタンパク質が、異常な形に折りたたまれ(これをミスフォールディングといいます)、それにつられて他の正常なタンパクも異常な形に折りたたまれる結果、病気が進行すると考えられています。

また破壊されなかった神経細胞においても、脳内での情報伝達に必要な神経伝達物質に対する反応性が低下するといった異常が確認されます。

さらに記憶、学習、集中などの機能に関与する神経伝達物質であるアセチルコリンの量が減ることも分かっています。

遺伝子

家族性アルツハイマー病の遺伝子異常

アルツハイマー病のうち1%以下ではありますが、優性遺伝する家族性アルツハイマー病があります。優性遺伝とは、両親のうち1人が家族性アルツハイマー病遺伝子変異を有する場合に、子供が2分の1の確率で発症するような遺伝です。

確認されている遺伝子の異常として代表的なのは以下のものです。

  • イプシロン4:イプシロン4の遺伝子を保有している人はアルツハイマー病を発症しやすく若い年齢で発症することが分かっています。
  • イプシロン2:対照的に、イプシロン2の遺伝子を保有している人はアルツハイマー病になりにくい可能性が示唆されています。

これらの遺伝子はコレステロールを運ぶタンパク質であるアポリポタンパクE(apoE)に影響を及ぼします。

孤立性アルツハイマー病に認める遺伝子異常

家族性アルツハイマー病以外のアルツハイマー病を孤立性アルツハイマー病といいます。

実は孤立性アルツハイマー病にも遺伝子の異状は確認されています。

アポリポたんぱく質Eのε4遺伝子型は、孤発性アルツハイマー病の発症リスクを大幅に高めます。

リスクを上げるもの下げるもの含めて、孤発性アルツハイマー病に影響する遺伝子は約30種類確認されています。

生活習慣

アルツハイマー病の発症には、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病が影響することが分かっています。以下のようなものが関係すると考えられています。

  • コレステロール値コレステロール値の上昇がアルツハイマー病の発生に関与していることを示唆するいくつかの科学的証拠があります。飽和脂肪酸(※2)の少ない食事をとり、適度な運動を心がけることが大切です。

(※2)飽和脂肪酸

油脂成分脂肪酸のうち、炭素多重結合をもたないものの総称。脂質を構成する成分である脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があるが、飽和脂肪酸は化学構造式で炭素原子どうしが単結合(一重結合)しているもので、常温では固形のものが多い。バターやチーズ、ラードなどの乳製品や、ウシやブタ、ヒツジなどの動物性食品に多く含まれる。ほかにチョコレート、やし油、パーム油など一部の植物性油脂にも含まれている。飽和脂肪酸は融点が高く体内で固まりやすいため、含有率の高い食品を多量に摂取して血中に増えすぎると、血液粘稠(ねんちゅう)度が高まり血流が滞りがちになる。さらに、血中LDLコレステロール値を上昇させて中性脂肪を増加させるため、肥満や動脈硬化などの生活習慣病に陥りやすく、また、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞などに陥る危険性も高まる。反対に、摂取量が減少すると血管がもろくなり脳出血などに陥る危険性が増加する。しかし、飽和脂肪酸はヒトの体内で合成が可能であり、食物からの摂取が必須(ひっす)のものではない。

日本大百科事典より引用
  • 高血圧血圧が高いと、脳に血液を送っている血管が損傷して、脳への酸素供給量が減少し、認知症の原因になる可能性があります。
  • 運動不足運動不足になると脳の血流が減少し、酸素供給が滞り、認知症の原因になります。
  • 精神的活動性の低下毎日やることがなく刺激のない生活を送っていると、神経細胞の間で新しい接続(シナプス)が形成されず、認知症の原因になります。

遺伝子にアプローチして予防することはは現時点では困難ですが、生活習慣を変えることで予防することは可能です。

日々の運動習慣やバランスのとれた食生活を心がけることでアルツハイマー病を予防できます。