腰部脊柱管狭窄症に運動は有効か【専門医解説】

腰部脊柱管狭窄症とは

腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)とは、の神経の通り道である脊柱管※1が狭くなることで、神経の束である脊髄神経(せきずいしんけい)※2が圧迫されて様々な症状が現れる病気です。

※1脊柱管:脊柱管とは首の骨や背骨、腰骨の一部がドーナツ状になっている部分で、脊髄神経の通り道となっています。脊柱管は骨以外にも椎間板や靭帯(じんたい)などで構成されています。

※2脊髄神経:脊髄神経とは脳と直接つながっている神経の束です。脳からの指令を体に伝えたり、体の感覚を脳に伝えたりする役割があります。

wikimedea commonsから転用改変
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Lumber_vertebra_1_close-up_inferior_surface.png

脊柱管と呼ばれるドーナツ状の部分を脊髄神経が通っています。

脊髄神経は場所によって次の4つの部分に分けられます。

  • 頚髄(けいずい):首の骨を通る部分
  • 胸髄(きょうずい):背骨の骨を通る部分
  • 腰髄(ようずい):腰の骨を通る部分
  • 仙髄(せんずい):骨盤を通る部分

老化などが原因で腰の脊柱管が狭くなると腰髄が圧迫されます。

腰髄は両脚の運動や感覚のほかに、便や尿を調節するのに関係する神経の集まりです。

そのため腰の脊柱管が狭くなる腰部脊柱管狭窄症では、両脚や便、尿に関係する症状が出現します。

腰部脊柱管狭窄症について詳しく知りたい方はこちら↓

今回は腰部脊柱管狭窄症に対する運動の有効性について解説します。

こんな方にオススメの記事です

腰部脊柱管狭窄症の症状がつらい

腰部脊柱管狭窄症に運動が有効なのか知りたい

この記事を読めば、腰部脊柱管狭窄症に対する運動の有効性について知ることができます

まずは結論

まずは結論からお話します。

★腰部脊柱管狭窄症に理学療法または運動療法だけで効果があるという証拠はない

★腰部脊柱管狭窄症の症状の一部である腰殿部痛脚の痛みについては理学療法と運動療法の組み合わせは有効

それぞれについて詳しく解説していきます。

腰部脊柱管狭窄症に理学療法または運動療法だけで効果があるという証拠はない

腰部脊柱管狭窄症に対して、薬による治療と併用して理学療法や運動療法が行われていることが多いです。

理学療法とは、病気やケガ、老化、障害などによって運動機能が低下した状態にある人の運動機能の維持・改善を目的に、運動、温熱、電気、水、光線などを用いて行われる治療法です。いわゆるリハビリのことだと思って下さい。

運動療法とは、医学的根拠に基づいて運動を行うことで障害や病気の治療を行うもので、計画的な有酸素運動(ウォーキングなど)や筋力トレーニングのことをいいます。

理学療法や運動療法だけで腰部脊柱管狭窄症の症状を改善する効果があることを示す研究結果は報告されていません。

文献
  • Bodack MP, Monteiro M:Therapeutic exercise in the treatment of patients with lumbar spinal stenosis. Clin Orthop 2001(384):144-152
  • Fritz JM, Delitto A, Welch WC et al:Lumbar spinal stenosis:a review of current concepts in evaluation, management, and outcome measurements. Arch Phys Med Rehabil 1998;79(6):700-708
  • Murphy DR, Hurwitz EL, Gregory AA et al:A non-surgical approach to the management of lumbar spinal stenosis:a prospective observational cohort study. BMC Musculoskelet Disord 2006;23(7):16
  • Onel D, Sari H, Donmez C:Lumbar spinal stenosis:clinical/radiologic therapeutic evaluation in 145 patients. Conservative treatment or surgical intervention? Spine 1993;18(2):291-298
  • Rademeyer I:Manual therapy for lumbar spinal stenosis:a comprehensive physical therapy approach. Phys Med Rehabil Clin N Am 2003;14(1):103-110, vii
  • Rittenberg JD, Ross AE:Functional rehabilitation for degenerative lumbar spinal stenosis. Phys Med Rehabil Clin N Am 2003;14(1):111-120
  • Simotas AC:Nonoperative treatment for lumbar spinal stenosis. Clin Orthop 2001(384):153-161

腰部脊柱管狭窄症の症状の一部である腰殿部痛脚の痛みについては理学療法と運動療法の組み合わせは有効

Whitmanたちは、50歳以上の腰部脊柱管狭窄症60人に理学療法を行った研究結果を報告しています。

この研究では60人を

  • 屈曲体操(※1)通常のトレッドミル(屋内用のウォーキングマシーン)
  • 徒手理学療法(※2)ストレッチ体重負荷のかからないトレッドミル

の2グループに分けました。

(※1)屈曲体操

腰痛予防のために考えられた体操で、腹筋を強化する運動や背筋をストレッチする運動などが含まれています。

(※2)徒手理学療法

リハビリを行う理学療法士が、機械ではなく手を用いて患者さんの体を動かすことで、神経や筋肉に働きかけて治療する方法のことです。

効果を判定するために

  • 自覚した改善の程度
  • Oswestry Disability Index(※3)
  • トレッドミル歩行テスト
  • 脚の痛み
  • 満足度

がどのように変化したかを比較検討しました。

(※3)Oswestry Disability Index

腰痛と脚の痛みによって日常生活がどのくらい妨げられているかを、患者さんが自分で記入して評価する方法

その結果、腰部脊柱管狭窄症の腰やお尻の痛み、脚の痛みを和らげるのに、理学療法が有効である可能性があることが分かりました。

特に徒手理学療法、ストレッチ、トレッドミル歩行の組み合わせによる治療が効果的であることが分かりました。

この研究で

理学療法は、専門家により診断された腰部脊柱管狭窄症の腰やお尻の痛み、脚の痛みを緩和させることが可能で、理学療法と運動療法の組み合わせが短期的にはさらに効果的

であることが証明されました。

残念ながらしびれを主症状とする腰部脊柱管狭窄症や神経性跛行に関しての効果は不明です。

文献

Whitman JM, Flynn TW, Childs JD et al:A comparison between two physical therapy treatment programs for patients with lumbar spinal stenosis-A randomized clinical trial. Spine 2006;31(22):2541-2549

まとめ

  • 腰部脊柱管狭窄症に対して、理学療法だけ、または運動療法だけで治るという研究結果は出ていません。
  • しかしながら理学療法によって腰部脊柱管狭窄症の症状(腰やお尻、脚の痛み)を緩和させられる可能性はあります。
  • 症状の緩和させるには、理学療法に運動療法を組み合わせるとより効果的です。

腰部脊柱管狭窄症にオススメの漢方薬

整形外科外来では腰部脊柱管狭窄症の人に対して、血流を良くする薬やビタミンB12製剤を処方しますがあまり効果がありません。

体力がある腰部脊柱管狭窄症の人は、漢方薬の牛車腎気丸桂枝茯苓丸を一緒に飲むことで症状改善することがあります。

漢方薬にも副作用はあるので、医師や薬剤師に相談のうえ内服を検討してください。