【専門医解説】腰痛の治療(手術以外)

はじめに

腰痛は仕事や学業、スポーツのみならず、日常生活に支障が出ます。

僕自身も30歳の頃、運動不足と体重増加が原因で腰痛もちになったあげく、ギックリ腰で1週間寝込んだ経験があるので、腰痛がいかに問題となるか実感しています。

2012年に一流の医学雑誌Lancet で衝撃的な論文が発表されました。
それは世界保健機関(WHO)を含む7つの世界主要機関による最新の研究報告によると、筋骨格系疾患(骨や筋肉、関節などが原因の病気)が 活動性低下に影響する主要な原因であり、中でも腰痛が最も影響を与えているという内容でした。

日本においても、厚生労働省が公表している業務上疾病発生状況等調査(休業4日以上)によると、腰痛の件数が最も多いことが明らかになっています。

また日本でインターネット調査会社が20~79 歳のモニター65,496名に対してアンケートを行ったところ、生きている間に腰痛になる割合は 83.5%という結果が出ています。

このようなデータからも腰痛がいかに問題となるかが分かるかと思います。

腰痛の原因についてはすでに解説しているのでこちらの記事をご参照ください。

今回は手術以外の腰痛治療について、概要を解説します。

腰痛の治療目標

元々腰痛の治療目標は痛みをゼロにすることでした。

しかし痛みをゼロにすることを目標とすることで、かえって痛みにとらわれてしまい、痛みがゼロにならないことに焦りや憤りを感じ、治療を長引かせてしまうことが分かってきました。

また痛みの感じ方には個人差があることも、痛みゼロを目標にするうえで問題となります。

同じ程度の痛みであっても、痛みに敏感な人は「痛くてつらい」と言いますし、痛みに強い人は「もう治りました」と言います。

そこで最近は痛みゼロを目標にはせず、痛みがありながらも社会復帰できることを目標とするようになっています。

治療を始めるにあたり、患者さんのお話をよく聞いて、どんなことをできるようになりたいのかを治療目標として掲げ、そのための治療を決めていきます。

手術以外の腰痛治療① 生活習慣の改善

日常生活での負担が腰痛の原因となっていることが多いです。

そこで日常生活の中で腰に負担のかかる動作を避けるように気を付けることが大切になります。

座る姿勢

意外なことですが、座っているとき腰にかかる負担は立っているときよりも大きいです。特に床にあぐらで座るのは腰に悪いです。(正座であれば腰の負担は減りますが、膝や下肢全体の負担が増えます。)

そこで座ることに関して以下の点に気を付けてください。

  • できるだけ床に座るのを避けて、イスやソファーでの生活を心がけましょう
  • 長時間座り続けないようにしましょう
  • できれば30分に1回は立ってウロウロするようにしましょう
  • イスに座る際は足台になるものを置いて交互に足を置くようにしましょう
  • 許されるのであれば足を組むようにしましょう
床の物を持つ
  • 腰を曲げずに膝を曲げてしゃがんでから物を持ったり拾ったりするようにしましょう
  • 背筋ではなく太ももの筋肉を使うことを意識するようにしましょう
  • 勢いをつけずにジワーっと持ち上げるようにしましょう
  • 体をできるだけ物に近付けて、物と体の距離を短くするようにしましょう
寝る姿勢
  • 仰向けは腰の負担が増えるので、横向きで膝を抱えるように寝るようにしましょう
  • 仰向けじゃないと寝られない場合は、膝が曲がるようにクッションなどを入れるようにしましょう
  • 柔らかすぎたり硬すぎる布団は避けるようにしましょう
  • 腰痛に良いとされるマットレスを使うようにしましょう

手術以外の腰痛治療② 腰へのサポート

  • 腰痛用ベルトは休み休み使うようにしましょう
  • 特に腰の負担が増える場面(重いものを持つ、長時間運転する、長時間座るなど)では腰痛用ベルトを使ってください
  • 冷えると腰痛が出やすくなるので、寒い場所に長時間いる際は腰痛用ベルトやカイロなどを使ってください

手術以外の腰痛治療③ 物理療法

身体に障害のある人に対して、運動機能の維持や改善を目的として行われる治療を理学療法(りがくりょうほう)といいます。
理学療法には、治療体操などの運動療法やマッサージなども含まれますが、その中でも熱・水・光・電気などの「物理的なエネルギー」を用いる治療法を、特に物理療法と呼びます。物理療法の起源は古く、紀元前400年頃には、既にシビレエイを使った電気治療が行われていました。現在では、身体を温める「温熱療法」、低周波治療器に代表される「電流刺激療法」、電界の中に身体を置いて治療をする「電位療法」など、さまざまな種類の治療法があります。

一般財団法人 日本電子治療器学会 H.P.より引用

手術以外の腰痛治療④ くすり

  • 消炎鎮痛剤:カロナール、ロキソニンなど
  • 筋弛緩剤:ミオナール、リンラキサーなど
  • 外用剤:湿布、塗り薬
  • 鎮痛補助薬:抗うつ薬、抗けいれん薬、ステロイドなど

手術以外の腰痛治療⑤ 運動

  • 姿勢の改善
  • 腹筋の強化
  • 柔軟性

手術以外の腰痛治療⑥ 手技療法

  • あん摩指圧マッサージ
  • 鍼灸
  • 筋膜リリース

など

その他

運動不足や肥満、過労、精神的ストレスなども腰痛の原因となります。

有酸素運動(ウオーキング、ジョギング、スイミング、サイクリングなど)や休息時間の確保なども重要なので日ごろから心がけましょう!