【医師解説】薬いらずの認知症特効法

認知症に対する研究は日々行われ原因についてはだいぶ解明されてきてはいますが、根本的な治療は見つからず、いまだに効果的な薬が開発されていないのが現状です。

そんななか、唯一認知症予防に効果を発揮することが確認されているものがあります。それがです。

運動不足などの認知症の危険因子をコントロールすれば,全世界で認知症患者が 300万人も減少する可能性があるとの報告もあるほどです。

運動とひとことに言っても色々なものがあります。

大きく分けると

  • ウエイトトレーニングのような筋力を使う運動
  • ウォーキングやサイクリングのような有酸素運動
  • ストレッチやヨガのような柔軟運動

に分けられます。

このうち認知症に対して効果が証明されているのは有酸素運動です。

有酸素運動とは

有酸素運動とは、長い時間継続して行う心拍数や呼吸数が上がるような運動です。代表的な有酸素運動にウォーキング、ジョギング、エアロバイク、サイクリング、水泳などがあります。

有酸素運動という名前は、運動中に必要なエネルギーを作り出すのに、食事で吸収し貯蔵された糖(グリコーゲン)や脂肪(体脂肪)と酸素を反応させて作り出すことに由来します。グリコーゲンは早い段階で使い切ってしまうため、長時間の運動になると体脂肪と酸素を反応させてエネルギーを確保します。その際大量の酸素が必要となるため、酸素を取り入れながら運動を行う必要があります。そのため有酸素運動を行うと「はあはあ」と呼吸が早くなるのです。

なぜ運動が認知症に効くのか

実は運動がなぜ認知症の発症予防や進行予防に効果的なのかははっきりしていません。

現在考えられている説として以下のようなものがあります。

運動によって心機能がアップする影響で脳血流が増加するため

運動をすることで心臓はドキドキします。心臓がドキドキするということは心臓の筋肉を使っているということです。腕や脚の筋肉と一緒でたくさん使えば筋肉は鍛えられます。腕や脚の筋肉が鍛えられることで腕力や脚力が増すのと同じように、心臓が鍛えられれば心臓の力も増します。

心臓の力が増せば一回の心拍でたくさんの血液を体中に送ることができます。

血液には酸素や様々な栄養素が含まれています。

つまり心臓の力が増せばそれだけ多くの酸素や栄養を脳に届けられるようになるわけです。

神経形成に必要な神経栄養因子IGF-Ⅰ(insulin-like growth factor-Ⅰ),BDNF(brainderived neurotrophic factor),VEGF(vascular endothelial growth factor)などの働きが促進されるため

神経栄養因子(neurotrophic factor)とは神経細胞の生存維持や成長促進、機能調節などの働きを持つ蛋白分子の総称です。
IGF-Ⅰは血糖値を下げるインスリンと似た構造をしているため別名インスリン様成長因子と呼ばれます。運動によって分泌された成長ホルモンの刺激を受けて主に肝臓から分泌される物質です。神経細胞の成長を促進させる働きがあります。

BDNFBrain-Derived Neurotrophic Factor の略称で、日本語では 脳由来神経栄養因子といいます。脳における最も主要な神経栄養因子です。脳神経の成長、生存に関わります。

VEGFvascular endothelial growth factorの略で、日本語では血管内皮細胞増殖因子といいます。血管を新たに作る作用があります。血管が作られることで血流が増し、酸素や栄養が脳に届きやすくなります。

タウやアミロイドなど認知症の原因となる異常蛋白の脳への沈着を防ぐため

タウとは中枢神経細胞に存在する、神経細胞の信号伝達に関わる微小管結合タンパク質のひとつです。

タウはもともとは脳の神経ネットワークを構成するのに欠かせない重要なタンパク質で、中枢神経細胞に多量に存在しています。

ところが、何らかの理由でタウに異常が生じると、細胞内でかたまりを作り、神経細胞の死を招きます。

このようにタウタンパク質が原因となる病気はタウオパチーと呼ばれ、アルツハイマー型認知症(AD)や前頭側頭葉変性症(FTLD)などがあります。

アミロイドとは体に沈着する繊維構造のタンパク質の総称です。アミロイドが何らかの理由でかたまりとなって過剰に沈着すると、その臓器は機能が低下します。

全身にアミロイドが沈着するアミロイドーシスという病気があります。心臓、肺、腎臓、肝臓、消化器など全身の様々な臓器機能が低下します。脳に限局してアミロイドβが沈着するとアルツハイマー病を発症します。

運動による脳の形の変化

運動は脳の形に変化を起こします。

運動を行うことで前頭前野、海馬を含む側頭葉内側、頭頂葉の灰白質・白質の容積が増大することが分かっています。

これらの領域は注意力や運動速度、物事を実行する機能、記憶などに関係します。

運動によって筋肉が増大するように、脳も増大するわけです。

運動で認知症予防を

気になるのがどれくらいの有酸素運動をすればよいのかということです。

最近の研究で、40分の有酸素運動を週3回、1年間続けると、脳の記憶を司る領域である海馬の体積が4%増えることが確認されています。

認知症予防以外にも糖尿病や高脂血症、高血圧などの生活習慣病予防にもなります。

誰にでもできる日々の積み重ねがあなたの健康を作ります。

まずは散歩から気軽に始めてみましょう!