昨シーズンはインフルエンザ激減
昨シーズン(2020年秋から2021年春)インフルエンザが流行しなかったのはご存じかと思います。
統計的にもインフルエンザで医療機関を受診する人の数は、例年平均で1000万人であるのに対し、昨シーズンはわずか1万4千人と約1000分の1でした。
理由として、行動制限や感染対策の徹底などが考えられていますが、それ以外にもウイルス同士の意外な関係性が影響しているようです。
イエール大学の研究結果
風邪をひくと新型コロナウイルスに感染しにくくなる可能性があることを示す論文を、イエール大学の研究チームが2021年6月15日にJournal of Experimental Medicine誌に発表しました。
この研究室では、以前の研究で、風邪のウイルスがインフルエンザを予防する可能性があることを示しています。
今回はその研究の応用として、風邪の原因として最も頻度の高いライノウイルスが新型コロナウイルス感染症を予防する可能性を調べました。
論文の内容は、ライノウイルスに感染すると、新型コロナウイルスによる感染を防ぐことができることを証明したものとなっています。
実験は培養したヒトの気道組織に対して行われました。
気道組織に新型コロナウイルスを感染させたところ、感染していない組織では最初の3日間で新型コロナウイルスが6時間ごとに倍増していたのに対し、ライノウイルスにさらされた組織ではウイルスの複製が完全に停止していました。
感染を防ぐメカニズムは以下のように考察されています。
①風邪に感染すると、気道組織内でインターフェロンという物質が分泌される。
②インターフェロンには、ウイルスの複製を停止させる作用がある。
インターフェロン
略称IFN.抗ウイルス作用を有するタンパク質で,IFNα,IFNβ,IFNγのサブタイプがある.1個の細胞にウイルスを同時に2種類感染させようとすると,その2種類のウイルスが共生的に細胞内で増殖する場合と,一方のウイルス増殖がほかのウイルスによって阻止される場合とがある.この感染阻止作用をもつ物質はウイルス粒子そのものではないことが明らかになり,これをインターフェロンとよんだ.感染阻止は特異的な免疫とは関係なく,ウイルス,またはその断片や増殖力のないウイルスとの接触によっても,またトキソイド,核酸,リケッチャ,細菌,抗生物質ばかりでなく,物理的刺激でも誘発される.Ⅰ型に分類されるIFNα(白血球由来)とIFNβ(繊維芽細胞由来)は比較的似ており,Ⅱ型に分類されるIFNγはこれらと少し異なる.C型肝炎の治療に効果があることから一時注目された.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)
③この状態で新型コロナウイルスが入り込んできても、増殖することができないため、感染症になることを防ぐことができる。
INFの治療への応用
本研究の上席著者であるエレン・フォックスマンは、新型コロナウイルス感染の初期段階でインターフェロンによる防御機構を作動させれば、感染の予防や治療が可能になると述べているます。
しかし多くの人が症状を示さない感染初期に投与しないと効果がなく、感染後期にインターフェロンを投与すると病状を悪化させてしまう可能性があるため、投与のタイミングが重要です。
現在、新型コロナウイルス感染症に対するインターフェロンの臨床試験が行われており、これまでのところ、感染初期には効果がある可能性が示されていますが、感染後期には効果がないことがわかっています。
行動制限が緩和されると、この1年間に眠っていた風邪やインフルエンザのウイルスが、より強力に復活することが懸念されます。
フォックスマン氏は、ウイルス同士が干渉するため、ウイルスが流行する度合いに「上限」が設けられる可能性があると述べています。
重症化のリスクが低い風邪のウイルスが流行して上限に達するのが理想的ですが、毎年どのウイルスが優勢になるかは未知です。
いずれにせよ予防が重要であることに変わりはありません。
マスク、手洗い、消毒は習慣にしましょう!
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