【専門医解説】知らないとまずい!フレイルサイクル

あなたはフレイルやサルコペニアという言葉を聞いたことがありますか?

医療業界で最近注目されている概念です。

簡単に説明すると、フレイルとは運動不足で足腰が弱ってしまう状態です。

サルコペニアとは老化に伴って筋肉が減ることをいいます。

在宅医療に携わっていると、活動量が低下することで筋力や体力が低下し、徐々に歩けなくなり、やがて体が弱って寝たきりになってしまう方が非常に多いです。

体を動かす機会が少なくなることは、筋力や体力の低下のみならず、体全体に悪影響を及ぼします。

活動量低下が原因でフレイルやサルコペニアになることで起こる悪循環をフレイルサイクルと呼びます。

今回はフレイルサイクルについて解説します。

この記事を読むことで、体を動かさないことが全身に及ぼす悪影響を知ることができ、健康を維持するためにすべきことを理解できるようになります。

フレイルとは

フレイルサイクルを説明するまえに、まずはフレイルについて説明します。

フレイルとは英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源となっています。日本語に訳すと「虚弱」「脆弱」を意味します。

日本老年医学会は「Frailty」は正しく介入すれば戻るということを強調したかったため、多くの議論の末、「フレイル」と共通した日本語訳にすることを2014年5月に提唱しました。

厚生労働省研究班の報告書では、フレイルについて次のように記述されています。

「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像

厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業) 総括研究報告書 後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究

フレイルとは、ご高齢者が老化に伴って心身が脆弱となり、健康が損なわれやすくなった状態です。『健康』と『要介護』の中間がフレイルだと思ってください。

以下の①~⑤のうち、3つ以上当てはまる場合にフレイルと判断されます。

① 歩行速度の低下

筋力の低下以外にも、心肺機能の低下や貧血、脳の病気(脳梗塞、脳出血など)、神経の病気(腰部脊柱管狭窄症、パーキンソン病、脊髄炎、神経炎、脊髄小脳変性症など)、運動器の障害(変形性膝関節症、変形性脊椎症など)が原因でも歩行速度は低下します。

② 疲れやすい

体力を消耗するような病気(関節リウマチのような慢性的に炎症を起こす病気、ガンなど)、心肺機能の低下、心の病気などが原因で起こります。

③ 活動性の低下

認知症や意欲の低下、うつ病などが原因で動くことが億劫になってしまうと、活動性が低下してしまいます。

④ 筋力の低下

加齢に伴って誰しも筋力は低下します。それに加えて①で歩行速度低下原因として挙げたような病気があると、筋力低下を増長させます。

⑤ 体重減少

今までに比べて体重が減ってきたら注意が必要です。特に半年で5%以上の体重減少は病気の可能性があるので受診する必要があります。

①~⑤はどれも明確な基準がありませんが、何となくでも当てはまるものが3つ以上ある場合はフレイルだと考えてください。

フレイルサイクルを理解するうえで説明が必要な用語がもうひとつあります。

それはサルコペニアです。

サルコペニアとは

サルコペニアとは老化に伴って筋肉量が低下していくことです。2016年10月国際疾病分類に「サルコペニア」が登録され病気として扱われています。

サルコペニアになると筋肉を構成する筋繊維の数と筋肉の横断面積がともに減少します。

サルコペニアは、広背筋・腹筋・膝伸筋群・臀筋群などの重力に対して体を立ち上がらせて支える筋肉に現れやすいため、立ち上がりや歩行が困難になりやすく、老人の活動能力低下の原因となっています。

「重たいものを持てなくなった」「腕が細くなった」「太ももやふくらはぎが細くなった」「イスから立ち上がりにくくなった」などの自覚症状があればサルコペニアの可能性があります。

フレイルサイクル

用語の説明が終わったところで、いよいよフレイルサイクルについてです。

下図がフレイルサイクルです。

この図の見方を説明します。

まず活動量低下からスタートしましょう。

活動量が低下すると、消費するエネルギーが減ります。すると食欲が低下してしまい食事の摂取量が減ります。

活動量低下と食事摂取量減少のため筋肉量が減って、それに伴い体重が減少し、やがてサルコペニアになってしまいます。

サルコペニアになると疲労感筋力低下が起こり、次第に歩行速度が遅くなってきます。

するとさらに活動量が低下してしまい、さらに消費エネルギー減少⇒食欲低下⇒体重減少⇒サルコペニアという流れが繰り返されます。

このような悪循環をフレイスサイクルと呼びます。

フレイルサイクルを止める方法

フレイルサイクルを止めるには、リハビリテーションが有効です。

先ほどの図でも示しましたが、リハビリテーションが介入することで、フレイルサイクルの活動量低下の部分を改善できます。

リハビリテーションによって活動量低下が改善されれば、フレイルサイクルの流れを止めることができます。

完全に止めることができないまでも、サイクルを遅らせることはできます。

これがフレイルは正しく介入すれば戻ると言われるゆえんです。

リハビリテーションといっても何も特別なことをする必要はありません。

トイレに行く際、立ち上がるついでに何回かスクワットをしたり、トイレで用を足したついでに廊下を何往復か歩いてみるといった『ついでリハビリ』をするだけでも変化は現れます。

大事なのは積み重ねです。少しずつでも活動量を増やしてフレイルサイクルを止めましょう!