感情の対処法

はじめに

僕たちの行動や発言には感情が大きく影響しています。

感情を意味する英語のemotionは「動き出す」を意味するラテン語が語源です。

この語源は感情の特性をよく表せています。

感情が生まれることで僕たちの心は動き出し、体も動き出します

悲しければ泣き、楽しければ笑います。気分がのっているときは活発に行動します。

このように感情は心身に大きな影響を及ぼします。

感情にまかせて暴言や暴力をふるってしまったりすることで人生を台無しにする人がたくさんいます。

感情について理解し、感情をコントロールできるようになることは、人生を有意義なものにするのに必要なことです。

人生を左右するほどの影響力を持つ感情ですが、理解している人は非常に少ないです。

この記事を読めば、感情が脳の中でどのようにして生まれるのかを理解できるようになります。その結果、感情に振り回されることが少なくなり、自分の行動や発言をコントロールし、ひいては人生そのものをコントロールできるようになります。

感情の生まれるシステム

五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)の受容器(目、耳、鼻、舌、皮膚)を通して入ってきた情報は、脳の視床という部分を介して大脳皮質感覚野に伝わります。

大脳皮質感覚野で感覚が発生します。

発生した感覚は、過去の記憶や知識と照らし合わせて処理し、大脳皮質連合野で認識されます。

認識した感覚に対して思考を行い、その結果感情が生まれます

簡単に説明すると、五感を通して入ってきた感覚に対して、過去の経験や知識と照らし合わせて思考し、その結果感情が生まれるという感じです。

分かりやすくするために、怒られた人を見かけたときのことを例に説明します。

怒られた人の姿が視覚を通して脳に伝えられると、視床を経由して大脳皮質感覚野に画像が送られます。次に大脳皮質連合野で、送られてきた画像を脳のメモリーと照らし合わせます。その結果、画像の人物に怒られたことがあることが分かります。するとその時のことを思い出して「あの時はとても嫌な思いをしたな」と思考します。その結果「怒」「哀」といった感情が生まれます。

何となくイメージできたでしょうか。

このようにして感情は生まれます。

さらにもうひとつ知っておくべき感情を強化するルートが存在します。

感情を強化するもうひとつのルート

五感の情報が初めに経由した視床を通過する際、扁桃体にも情報が伝えられます。

扁桃体は入ってきた情報に対して価値判断を行う部位です。つまり自分にとって有害か有益かを判断します。

もし扁桃体が有害だと判断すると、中脳を介して危険に対して身構えるために体をすくめさせたり、橋(きょう)を介して危険を回避するために体をのけぞらせたりします。

扁桃体はさらに視床下部という部分を刺激し、副腎からストレスホルモンを分泌させます。ストレスホルモンは俗称で、正式な名称はコルチゾールアドレナリンです。

ストレスホルモンのおかげで、敵に遭遇して闘ったり逃げたりするのに必要な状態が作れます

具体的にはコルチゾールは糖を産生して動くのに必要なエネルギーを確保し、ケガや感染による炎症を抑えるといった作用があります。

アドレナリンは気管をひろげて呼吸をしやすくしたり、心臓を強く動かしたり、血管を収縮させて出血しにくくしたりします。

しかしストレスホルモンが出過ぎてしまうと、糖尿病になったり、高血圧になってり、動脈硬化になったり免疫力が低下したりします。感情をコントロールすることで病気を予防することができます。

扁桃体を介して起こる体への反応(中脳を介した身構え。橋を介したのけぞり。副腎から分泌されるストレスホルモンによって心臓が強く動き血圧が上がることでドキドキ、カーっとなる反応)は再び大脳皮質感覚野に伝わります

すると再び大脳皮質感覚野⇒大脳皮質連合野⇒思考⇒感情のルートが刺激され、感情がさらに強化されます。この際、同時に扁桃体⇒視床下部⇒ストレスホルモン分泌も強化されています。

このようにして感情がどんどん強まっていくループが完成し、感情が高まってしまうわけです。

感情への対処法

感情のループを抜け出すことで、感情に流されて人生に悪影響を及ぼす行動をとらなくなり、正しい行動をとることにつながります。

そのための対処法をいくつかお教えします。

思考を変える

感情が生まれるまでのルートで唯一自分でコントロールできるのは思考の部分です。

先ほど説明したように、知覚した情報を知識や過去の記憶と照らし合わせ思考した結果感情が生まれます。

この思考の部分を変えるわけです。

例えば怒られた人に出会った際、知覚した情報(姿や声)が脳に伝えられ、過去の記憶(怒られた記憶)と照らし合わせ、「また怒られるかもしれない。」と思考し、悲しい感情が生まれてしまうわけですが、「今は怒られるようなことはしていない。仮に怒られたとしても命まではとられない」と思考することで、悲しい感情は生まれにくくなります。

はじめはどうしても「また怒られるかもしれない。」と考えてしまいがちですが、そのあとに「…と今までなら考えてしまっただろうけど、今は違う。」と考えを反転させるトレーニングをしてください。

繰り返しトレーニングすることで、思考のクセは変えられます。

その結果、感情を変えることができます。

運動を行い、身体反応を観察する

運動を行って胸がドキドキしたり息がハアハアする状態になったら、ドキドキやハアハアに意識を集中させてください。ドキドキしたりハアハアするのは体の反応であって感情による反応ではないことを脳に認識させます。そうすることでストレスホルモンの影響でドキドキ、ハアハアした情報が大脳皮質連合野に伝えられる際、照らし合わせる経験が「これはいつも運動のときに現れる体の反応です」となっているので、感情を強化されずにすむようになります。

またウォーキングなどのリズミカルな運動をするとドーパミンが分泌され気分が上がるという効果もあるので、運動習慣を身に付けるのはおススメです。

体の反応を利用して感情をコントロール

大脳皮質連合野で照らし合わせる経験を逆に利用する方法です。今までの経験で笑顔=喜、楽と脳は認識しています。ですから笑顔になれば脳が生み出す感情は喜、楽になってしまいます

笑顔をつくるだけでエンドルフィンという神経伝達物質が分泌されることも分かっています。エンドルフィンは気持ちをポジティブにする物質です。

日光浴をする

日光を浴びるとセロトニンという神経伝達物質が分泌され、感情が安定することが分かっています。特に起床時浴びるのがおすすめです。

まとめ

感情は知覚した情報を過去の経験と知識に照らし合わせて思考した結果生まれます。それと同時に体の反応によって感情は強化されます。

知覚した情報に対する思考を変えることで感情をコントロールすることは可能です。

運動時に心臓がドキドキしたり呼吸がハアハアする状態に意識を集中することで、感情によってドキドキ、ハアハアした際に「これは単なる体の反応でしかないんだ」と思えるようになり、感情が高まるのを防ぐことができます。