【専門医解説】腰痛肩こりに効く温熱療法

整形外科で腰痛に行う治療は

  • 飲み薬(消炎鎮痛剤のカロナールやロキソニンなど、筋弛緩剤のミオナールやリンラキサーなど)
  • 外用剤(シップや塗り薬など)
  • 注射(トリガーポイント注射、ブロック注射)

などが中心です。

それと並行してよく行われている治療に温熱療法や牽引療法などの物理療法があります。

今回は温熱療法について解説します。

温熱療法とは

温熱療法とはさまざまな器具を使用して温める治療法です。

最も身近な温熱療法としては日光浴や温泉、入浴があります。

温熱療法の歴史は古く、紀元前500年頃からギリシアで行われていた記録も残っています。

科学的に研究されるに至ったのは18~19世紀になってからです。

昔から腰痛には温泉が良いとされていますし、あなた自身もお風呂に入ることで痛みが和らぐ経験をしたことがあると思います。これも立派な温熱療法です。

医療機関で行う温熱療法には定義があります。

熱、電磁波、超音波等のエネルギーを生体に供給し、最終的に熱エネルギーが生体に加わることで、循環の改善や疼痛の軽減、リラクゼーション等の生理的反応を引き起こす治療法

温熱療法には大きく下記の3種類に分けられます。

  • 乾式(乾熱式)(=赤外線治療、ホットパック等)
  • 湿式(湿熱式)(=温泉療法、ホットパック、パラフィン浴等)
  • 転換熱(=極超短波治療器、超音波治療器)

よく行われるものにホットパック、赤外線、超短波極超短波などがあります。

それぞれについて詳しく説明します。

ホットパック

湿熱式ホットパック
日本メディックスH.P.より転用

保温性の高いシリカゲルなどを厚い木綿の袋に入れパック状にしたものを用います。

パックを加温器で80~85℃の温度で15分以上加温してから使用します。

温まったパック(ホットパック)をバスタオル等で包み、患部にベルト等で取り付け温めます。

シリカゲルは20~25分間の熱放出が可能です。

皮膚温が最高に達するのは治療開始から7~12分後で、5~10℃上昇します。

含水率の高い末梢血管や皮膚が加温されやすいのですが、1~2cmの深さの筋組織では最高温度に到達するまでに15分以上かかってしまいます。3cmの深さの筋では温度上昇は1℃以下とあまり効果を発揮できません特に脂肪組織が多いところでは筋肉に熱が伝導しにくくなります。

ホットパック療法を行うと、脳の視床下部と呼ばれる部分の温度調節作用により、血管を拡げるヒスタミン様物質が分泌され、血流は2倍以上になります。このことにより血行が促進され、痛み物質であるヒスタミン、ブラディキニンが除去され痛みが軽減されます。

また、皮膚の温度受容器が熱を感知するとγ線維と呼ばれる筋肉の収縮に関係する神経の伝導が遮断され、筋緊張が軽減されます。

赤外線

赤外線治療器の写真
日本メディックスH.P.より転用

赤外線とは、太陽光線に含まれる熱放射線の一種です。太陽光の50~60%の割合が赤外線です。

赤外線は体に吸収されると、組織の温度を上昇させる性質が最も強い光線です。

赤外線が組織を温める作用を医療に応用したのが赤外線療法です。

赤外線療法は1875年Kellogによって初めて行われました。

赤外線治療器が熱を発生させる原理は、タングステンフィラメントを加熱し赤色フィルターで可視光を取り除き赤外線のみを残す方法と、セラミックスを熱して遠赤外線そのものを出す方法があります。

治療効果は、皮膚表面の温熱作用がほとんどです。せいぜい10mmほどしか熱は伝わらないとされています。残念ながら皮膚よりも深い部分に与える効果はほとんどありません。

赤外線は血管を拡げ、皮膚の血流を増やすことで新陳代謝を活性化させることで痛み物質を取り除くことで痛にを和らげる作用があります。

超短波

超短波とは1秒間に2700万回プラスとマイナスの極性が入れ替わることで発生します。
超短波が体に当たると、細胞内に存在するプラスとマイナスの電気を持っている双極性分子が回転し、細胞同士が摩擦することで発熱します。

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一般財団法人 日本電子治療器学会HPより転用

超短波を当てると、表面は温かくないのに、体の奥深くから心地よい温感が伝わってきます。
ホットパックは体の表面しか暖まりませんが、超短波は体内深部3〜5cm位まで温めることができます。

極超短波(マイクロ波)

極超短波治療器
日本メディックスH.P.より転用

極超短波(マイクロ波)は、 1925年にStiebockにより治療器として応用する考えが発表され、第二次世界大戦後に普及した比較的新しい治療法です。1947年12月に米国で理学療法に関する国際会議が開かれ、その席上で極超短波治療器が正式に許可され、 超短波の100倍である波長周波数2450MHz(1秒間に24億5千万回の振動)のマイクロ波を使用することが決定されました。

治療機器の原理は、マグネトロンと呼ばれる特殊な2極管により極超短波を発生させるというものです。 生体の深部組織から温め、特に水分をよく含む筋膜付近を温めるという生理作用があります。 しかし金属をよく加熱することから体内にペースメーカ、金属類が入っている患者さんには使用できません。

超短波や極超短波には以下のような効果があります。

  • 血行をよくする
  • 神経痛、筋肉痛の痛みの緩解
  • 筋肉のコリをほぐす
  • 筋肉の疲れをとる
  • 胃腸の働きを活発にする
  • 疲労回復

最後に

腰痛に対する物理療法の効果については科学的根拠は十分とは言えませんが、腰痛診療ガイドラインには「急性および亜急性腰痛に対して短期的に有効である」と明記されています。

ガイドラインの根拠は、腰痛に対する試験9件(患者1117例)を系統的に調べた結果によります。腰痛に対して温熱療法を開始したところ、4日目の痛みや機能は内服治療よりも改善していたとの結果が出ました。

残念ながら慢性腰痛に対する科学的根拠は明らかになっていませんが、経験的に効果はあると考えられています。