ヘルニアの症状は腰痛にあらず
一般的にヘルニアという場合、腰のヘルニアに対して使われることが多いです。
実は腰以外にも、首や背骨にもヘルニアはあります。
さらに太ももの付け根で腸がポコッと飛び出る鼠経(そけい)ヘルニアや、脳が頭蓋骨からはみ出る脳ヘルニアなどもあります。
ヘルニアの語源は〈脱出〉を意味するラテン語のherniaで、臓器もしくは組織が体内の裂け目を通って本来の位置から脱出した状態をいいます。
腰のヘルニアは、正確には腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアといいます。
腰痛持ちの人はよく「ヘルニアがあるんです」と口にするのを耳にします。
多くの人が腰のヘルニアの症状は腰痛だと思っていますが間違いです。
では腰椎椎間板ヘルニアにはどのような症状があるのでしょうか?
★自分が腰のヘルニアなのか知りたい
★腰のヘルニアになるとどんな症状が出るのか知りたい
この記事を読めば、腰のヘルニアにはどんな症状があるのか理解し、ある程度診断できるようになります。
自覚症状
まずは腰椎椎間板ヘルニアになった際、自分が感じる症状についてです。
結論からお話すると、腰椎椎間板ヘルニアで自覚する主な症状は
太ももからスネ、ふくらはぎ、足にかけての痛みやしびれ
です。
腰痛ではありません!
確かに腰のクッション材である椎間板などにも変化が表れているので、腰痛を併発している場合もあります。
しかしこの腰痛は、腰椎椎間板ヘルニアそのものの症状ではありません。
椎間板が飛び出して腰椎椎間板ヘルニアになることで起こる純粋な症状は、太ももから足にかけての痛みです。
なぜ腰の椎間板が脱出すると、太ももから足にかけて痛みが出るのでしょうか。
それは
椎間板の後ろを、太ももから足に向かって伸びる神経が通っているからです。
椎間板ヘルニアになると、ヘルニアが神経を直接圧迫します。またヘルニアによって起こった炎症が神経に波及します。
その結果太ももから足に向かう神経が傷つき、太ももから足にかけて痛みやしびれが出るのです。
ここで腰の構造について簡単に説明します。
腰の骨は5個縦に並んでいて、一番上の腰の骨を第1腰椎と呼びます。
以下第2、3、4、5腰椎と呼びます。さらにその下には仙椎と言う骨盤の一部に連結しています。
腰椎のことを英語でLumbar vertebraeと言うので、第1腰椎のことをL1と表現します。
仙椎を英語でSarcal vertebraというので、第1仙椎のことをS1と表現します。
腰から足に向かって伸びる神経は6本あります。この神経を神経根と呼びます。
神経根には番号が付けられていて、上から順番にL1、L2、L3、L4、L5、S1神経根と呼ばれます。
神経根は左右にあります。
神経根はそれぞれ担当する領域が決まっています。
痛みやしびれが出ている場所で、どこの神経根がヘルニアによって傷つけられているか推測できます。
この中でもよく見られるのがL5、S1の症状です。
L5:スネから足の親指(母趾)にかけて
S1:ふくらはぎから足の小指(小趾)、足の裏にかけて
図の領域に一致して痛みやしびれがあれば、腰椎椎間板ヘルニアの可能性があります。
症状は片側だけに出ることが多いです。
両側の場合は腰部脊柱管狭窄症など他の病気である可能性が高いです。
その他の症状
他にも腰椎椎間板ヘルニアの症状として特徴的なものに以下のようなものがあります。
- 安静時痛があり,体動によって悪化
- 痛みは咳,くしゃみで悪化
- SLRテスト陽性,左右差あり
- 尿の調節ができない
- 筋力低下
これらも当てはまるようなら腰椎椎間板ヘルニアである可能性は高いです。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
安静時痛があり,体動によって悪化
神経が傷ついて痛みが出る場合、じっと安静にしていてもズキズキと痛みます。
また動くことで腰に圧がかかった結果、ヘルニアがより飛び出してしまい、神経の圧迫が強まって痛みが増します。
痛みは咳,くしゃみで悪化
咳やくしゃみをすると椎間板にかかる圧が一気に上がります。
すると神経の圧迫が増すため痛みが悪化します。
SLRテスト陽性、左右差あり
腰椎椎間板ヘルニアを診断する方法のひとつにSLR(straight leg raising)テストという方法があります。
仰向けに寝て脚を膝を曲げずに真っすぐ上げていき、上がらなければ陽性です。
左右を比べて差があれば腰椎椎間板ヘルニアである可能性があります。
尿の調節ができない
腰椎の後ろを通る神経の束には、尿を調節する神経も含まれています。
この神経が腰椎椎間板ヘルニアによって圧迫されると、尿の調節ができなくなります。
尿の調節ができなくなると、頻繁にトイレに行くようになったり、思うように尿が出なくなったりします。
尿が出なくなるほど強い症状の場合は、緊急手術となります。
筋力低下
腰椎の後ろを通る神経には、運動に関係する神経も通っています。
腰椎椎間板ヘルニアによって運動に関係する神経が圧迫されると、筋力が低下してしまいます。
稀ではありますが麻痺(まひ)が起こることもあります。
麻痺が起こった際は緊急手術が必要となります。
症状を和らげるのに効く薬
腰椎椎間板ヘルニアによる痛みには痛み止めを処方します。
アセトアミノフェンやロキソニンなどをまずは処方します。
薬局でも購入可能です。
アセトアミノフェンは副作用が少ない分、効果が劣ります。量が増えると肝臓に負担がかかるので、肝機能が悪い方は注意が必要です。
ロキソニンは効果は強めですが、胃や十二指腸、腎臓などに負担がかかりやすいので注意が必要です。胃潰瘍や十二指腸潰瘍、腎機能障害がある人、ご高齢者は長期の服用は控えましょう。
しびれが強いタイプの腰椎椎間板ヘルニアには漢方薬の牛車腎気丸が有効です。
漢方薬にも副作用はあるので、医師や薬剤師に相談のうえ内服を検討してください。
今回は腰椎椎間板ヘルニアの症状について解説します。