スポーツは体にいいの嘘【専門医解説】

はじめに

整形外科には、スポーツの影響で痛みや障害が出現して受診する方が多いです。

そのような患者さんに共通しているのは、スポーツをしているから健康だと思い込んでいる点です。

しかし多くのスポーツは、多かれ少なかれ体にを与えています。

今回はスポーツによる健康被害をお伝えします。

この記事を読めば、スポーツによって体にどのような悪影響が出るのかを理解できるようになります。

突然死

いきなり物騒なワードを出してしまいましたが、突然死のうち1%はスポーツによるものです。

体育館利用者で1300万人に1人、フィットネスクラブ利用者で500万人に1人の割合で突然死しています。

決して確率は高くありませんが、誰にでもスポーツ突然死する可能性があることだと理解しておいてください。

突然死の主な原因は心臓が関係しています。

元々心臓に病気があった人が、運動することで心臓に負荷がかかり、命に関わるような不整脈が出現することで突然死を発症すると考えられています。

元々あった心臓の病気としては、高齢者では心臓を栄養する冠動脈の動脈硬化、若年者では肥大型心筋症や生まれつきの冠動脈奇形が多いです。

心臓・血管系の病気

突然死には至らないものの、スポーツにより心臓や血管に負担がかかることで様々な病気を発症します。

心臓の病気としては急性心筋梗塞不安定狭心症を発症することが多いです。

血管系としては脳内出血くも膜下出血大動脈破裂などがあります。

軽度なものとしては、運動後に血流が悪くなり、血圧が上がったり、心拍数が減ったり、失神したりすることがあります。このような症状は過度な運動後、急に運動を止めると出現しやすいので、クールダウンが大切です。

熱中症

熱中症に関してはあなたもご存じかと思いますが、ここで改めて知識の整理をしておきましょう。

熱中症とは暑い環境下で発症する障害の総称です。

運動すると体温が上昇しますが、汗をかくことで体を冷やし、体温が上がり過ぎないように調整しています。

しかし高温多湿な環境であったり、水分補給が不十分であったりすると、汗を十分にかけないため、熱中症になってしまいます。

熱中症は以下の3つに分類されます。

熱けいれん

Na(塩分)やカリウム、カルシウムなどの電解質を含まない水を大量に飲むと、希釈されて電解質濃度が薄まってしまいます。電解質濃度が薄まると、筋肉の膜が不安定になり、けいれんを起こしてしまいます。

電解質の異常は不整脈の原因にもなります。

予防のためにスポーツ飲料や塩飴などが勧められるのは、電解質濃度を保つためです。

熱疲労

脱水のため起こる全身のだるさめまい吐き気心拍数の上昇低血圧を熱疲労と呼びます。失神を伴う場合は熱失神といいます。

熱射病

脳の体温調節機能がおかしくなり、高体温(直腸温40.6℃以上)になり、意識障害を起こすものを熱射病といいます。

ひどい場合は様々な内臓が機能不全に陥り、死に至ることもあります。

呼吸器系

運動が引き金として喘息が起こる運動誘発喘息と呼ばれ、激しい運動を開始後5~8分で起こります。

運動による鼻やノドの粘膜乾燥や免疫力の一時的な低下によって、ウイルス感染による風邪をひきやすくなります。

消化器系

走ることでわき腹に痛みを自覚したことは一度はあると思います。運動に伴うわき腹の痛みを運動時側腹筋痛(サイドスティッチ)と呼びます。原因は不明ですが、食事や腸内ガスが原因だと考えられています。

運動によって胸やけ、吐き気、下痢などを生じることもあります。腹圧による胃酸の逆流や、筋肉に血液が奪われることで腸の血流が低下することが原因と思われます。

長距離走では腸から出血することもあります。

急性腎不全

運動によって筋肉が破壊されます。筋肉が破壊されるとミオグロビンという物質が血液中に流れます。大量のミオグロビンが血液中に流れ出すと、腎臓に過度な負担をかけ急性腎不全になる危険性があります。

ミオグロビン尿と呼ばれる赤褐色の尿が出るのが特徴です。ミオグロビン尿を認めたら、カリウム以外の電解質を含んだ水分をしっかり摂取するようにしましょう。

アナフィラキシーショック

ワクチンの副反応として有名になった命に関わることもある全身性のアレルギー反応であるアナフィラキシーショックですが、運動が原因でも起こります。

運動前にアレルギーとなるものを食べることなどが原因で起こると考えられています。

その他

登山で起こる高山病、スキューバダイビングなどの潜水で起こる潜水病なども、スポーツに関係した病気です。

長期的な病気としては貧血痛風があります。

さいごに

スポーツによって全身に様々な害が出ることを理解していただけたかと思います。

知識としてここで挙げたようなことが起こることを知っておくことが予防の第一歩です。

スポーツは体に良いものだと妄信せず、スポーツはリスクを伴うものだと理解して、過度な運動は控えるのが健康的にスポーツを行うコツです。

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