コレステロール【医師解説】

はじめに

中年にさしかかると健康診断でコレステロールの値が気になり始めます。

実は僕も40歳を過ぎてからコレステロールが高くなり、気にするようになりました。

そもそもコレステロールの値が高いとなぜいけないのでしょうか?

この記事を読めば、コレステロールの正体を知り、対処できるようになります。

コレステロールとは

コレステロールうち70~80%は体内で作られています。主な場所は肝臓や腸、皮膚などです。

食事から摂取されるコレステロールは全体のうちたった20~30%だけです。油物を避けた食生活を心がけてもコレステロールが下がらないのは、大部分が体内で作られているためです。

なぜ体はコレステロールを作る必要があるのでしょうか?

悪者だと思われているコレステロールですが、実は体にとって大切なものなのです。

コレステロールは僕たちの体を構成する30兆以上の細胞を形作っている細胞膜の成分です。コレステロールがないと細胞が維持できず生きることができません。

またホルモン(男性ホルモン、女性ホルモン、ステロイドホルモンなど)、胆汁酸、ビタミンDの原料にもなっており、体の機能維持、食べ物の消化、骨の生成にも欠かすことができません。

コレステロールは生きるうえで欠かすことができない重要な物質なので、体内で作れるようになっています。

ここまで読むとコレステロールは良いものに思えますよね。

しかしコレステロール値が高いと動脈硬化になる危険性が高くなるため悪者とされています。

動脈硬化になると、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞といった命に関わる病気を引き起こしやすくなります。

そのためコレステロール値が高いことは問題視されています。

しかし実際に問題となるのは悪玉コレステロールなのです。

悪玉コレステロール

あなたも悪玉コレステロール、善玉コレステロールという言葉は耳にしたことがあると思います。

悪玉コレステロールとはLDL-コレステロール、善玉コレステロールとはHDL-コレステロールのことです。

LDL、HDLとは何のことでしょう?

コレステロールはそのままでは血液に溶けることができません。水と油が分離するのと同じ原理です。どこでコレステロールはリポ蛋白という粒子に包まれて血液に溶けます。リポ蛋白の粒子が低密度のものをLDL(Low Density Lipoprotein)、高密度のものをHDL(High Density Lipoprotein)と呼びます。

高密度の粒子であるHDLは、不要となったコレステロールを包み込んで肝臓に運ぶ役割を果たしています。。このためHDL-コレステロールは善玉コレステロールと呼ばれます。

低密度の粒子であるLDLは、コレステロールを包み込んで全身の細胞に届ける役割を果たしています。前述したとおり細胞にとってコレステロールは大切なものなのですが、血管壁に入り込む量が増えるとコレステロールが血管壁に沈着して動脈硬化を起こしてしまいます。このため悪玉コレステロールと呼ばれます。

コレステロールの値が高いかどうかではなく、LDL-コレステロールの比率が高いかどうかが重要となってきます。

採血結果にL/H比というものが一緒に記載されていると思います。記載されていなくても自分で簡単に計算することができます。

L/H比=LDLコレステロール値/HDLコレステロール値

です。

この比率が2以上だとコレステロールが血管に蓄積している可能性があります。

2.5以上だと心筋梗塞や脳梗塞の危険性が高くなっています。

LDL-コレステロールが増える原因

まず念頭に置いておく必要があるのは、他の病気が原因でコレステロールが上がっている場合があるということです。

主な病気として、ネフローゼ症候群、閉塞性肝疾患、閉塞性胆道疾患、甲状腺機能低下症、クッシング症候群、先端巨大症などがあります。

このような病気がある場合は、病気の治療を行うことでコレステロールを下げます。

原因となる病気がない場合は、体質生活習慣が原因です

体質に関しては、遺伝的な要因と、年を重ねることで代謝が低下する要因とがあります。

遺伝的な要因に関しては改善が難しいので、お薬で対応することになります。

代謝の低下に関しては、まずは運動や食事で対応し、改善がなければお薬を開始します。

治療

運動

LDLコレステロールを低下させるには有酸素運動が有効です。

有酸素運動とは長時間継続することで糖や脂質を分解しエネルギー源とする運動です。ジョギングやウォーキング、サイクリング、スイミングなどが有酸素運動の代表的なものです。

無理なくできる範囲で有酸素運動を日常的に行ってください。いつもの通勤や買い物のルートを遠回りするだけでも効果的です。

食事

2015年2月にアメリカ農務省と保健福祉省から、食事でのコレステロール摂取制限は必要ないとの発表がありました。

日本でも厚生労働省による「日本人の食事摂取基準2015年版」でコレステロール摂取の上限値がなくなりました。
しかし飽和脂肪酸はLDLコレステロール値を増やすため、飽和脂肪酸を多く含む食品の摂取は減らす必要があります。

炭素と炭素の間に二重結合が全くない脂肪酸を飽和脂肪酸、二重結合がある脂肪酸を不飽和脂肪酸といいます。

飽和脂肪酸は一般的に体に悪いと考えられているお肉の脂身、鶏皮、生クリーム、ラード、マーガリンなどに多く含まれています。

飽和脂肪酸ではない不飽和脂肪酸はLDL-コレステロールを下げてくれます。

n-3系多価不飽和脂肪酸の多い青魚や、n-6系多価不飽和脂肪酸の多い大豆はおススメです。

不飽和脂肪酸のうち炭素の二重結合が一つのもの(例:オレイン酸など)を「一価不飽和脂肪酸」、2つ以上あるもの(例:α-リノレン酸、リノール酸、EPA、DHAなど)を「多価不飽和脂肪酸」といいます。

食物繊維の多い食品(野菜、玄米、雑穀米、海藻、きのこ、こんにゃく、芋など)を摂取することでLDL-コレステロールを下げることができます。

運動や食事で改善ない場合は薬による治療を開始します。

薬は大きく分けて9種類ありますが、ここでは最も一般的な治療薬であるスタチンについて説明します。

スタチンとはコレステロールを合成するのを促進するHMG-CoA還元酵素の働きを阻害することで、肝臓のコレステロール量を減らします。同時に血液中のLDLの取り込みが促進されるため、LDL-コレステロールが低下します。

スタチンによる心筋梗塞や脳卒中の予防効果が確認されています。

スタチンの薬剤名は以下のものがあります。

  • リポバス
  • ローコール
  • リピトール
  • リバロ
  • クレストール

さいごに

僕の場合は遺伝的な要因があるため、食事に気を使い有酸素運動を1年間継続しても、残念ながら効果が表れませんでした。

そこでクレストールの内服を開始したところ、LDL-コレステロールが低下し、L/H比が正常化しました。

心筋梗塞や脳梗塞などを予防するために、食事や運動で改善が得られない場合は医療機関を受診し相談しましょう!