仕事や趣味、家事などで手を酷使すると、手や指に色々と問題が生じます。
そのなかでもよく見かけるものにばね指があります。
ばね指は英語ではtrigger fingerといいます。銃の引き金(トリガー)を引くような形で「カク」っと指が引っかかって固まってしまうことが語源です。
ばね指はすべての指で起こる可能性があります。
ばね指になると日常生活のあらゆる場面で困るようになります。
初期であれば簡単に戻りますが、進行すると戻すのに痛みを伴ったり、戻らなくなってしまったりします。
この記事を読むことで、ばね指がどのようにして起こるのかを理解し、予防や治療について知ることができます。
まずはばね指がどのような状態なのかについて解説していきます。
ばね指はどのような状態か
ばね指とは腱鞘炎がひどくなった状態です。
腱鞘炎という言葉は一般的によく用いられるので馴染みがあると思います。
しかし腱鞘炎について説明できる人はあまりいません。
そこでまずは腱鞘炎について説明していきます。
下の図を見ながら読んでいただくと理解しやすいと思います。
この図はばね指の状態を側面から見たものです。
腱鞘炎とは文字通り腱鞘で炎症が起きた状態です。
では腱鞘とはなんなのでしょうか?
こちらも文字通り腱の鞘(さや)です。鞘とは刀を納めるさやのことです。
つまり腱鞘とは腱を納める鞘のようなものです。実際は底が開いた鞘なのでトンネルに近い印象です。
では鞘に納められている腱とはなんなのでしょうか?
腱とは指の骨に付いているひも状の組織です。腱は筋肉の先端部分だと思ってください。筋肉が収縮すると腱が引き寄せられ、腱が付いている骨が手前に引っ張られ、関節が曲がります。
腱が引っ張られる際、滑らかに動けるようにしているのが腱鞘です。
しかし限度を超えて繰り返し指が曲げ伸ばしされると、腱と腱鞘の間にも摩擦が生じてしまいます。
すると腱が炎症を起こして腫れてきます。
腱が腫れると、腱は腱鞘を通りにくくなってきます。
通りにくくなることでさらに炎症は強まります。まさに悪循環です。
やがて炎症で腫れた腱が、腱鞘よりも太くなってしまい、通過するのが困難になります。
その結果、指を曲げた際に太くなった腱が腱鞘の手前側で引っかかってしまい、指を伸ばせなくなってしまいます。
この状態をばね指と呼んでいます。
ばね指の予防
ばね指は女性ホルモンの分泌が低下すると起こりやすいことが分かっています。そのため閉経後の女性や妊娠後の女性はばね指になりやすいです。この点に関しては残念ながら防ぎようがありません。女性ホルモンであるエストロゲンと似た働きをするイソフラボンを豊富に含む大豆製品(豆腐、豆乳など)を摂取すると多少は予防になるかもしれません。
しかしほとんどの方は手や指を酷使することが原因でばね指になっています。
一番の予防は手を酷使しないということになります。
指を曲げ伸ばしする際に痛みや引っかかりを感じはじめたら、できるだけ手や指に負担をかけないよう心がけましょう。
特に何かを力強く握ったり、重たい買い物袋を持ったりする動作は、腱鞘炎を引き起こしやすいので気を付けてください。
初期であれば指のストレッチだけで症状が治まることも多いです。
起床時に症状が強く出る傾向があるので、目覚めて顔を洗うついでに、お湯をはって両手を1分ほど浸し温めてから、指を反対の手で握り、一本ずつゆっくり曲げ伸ばししてください。
こうすることで腱がなめらかに腱鞘を通過しやすくなります。
ばね指の治療
予防したにも関わらず症状が進むようであれば、治療が必要となります。
治療には塗り薬、固定、注射、手術があります。
塗り薬
腱鞘のある指の付け根の手のひら部分に、消炎鎮痛作用のある塗り薬を塗り込むことで、腱の腫れや腱鞘での炎症を和らげます。
固定
引っかかることを予防することと安静を目的に、装具やシーネ(骨折などの際に用いる固定材)を用いて固定することもあります。ただし日常生活を送りにくくなったり、関節が硬くなってしまうというデメリットがあるので、あまり行われることはありません。
注射
腱鞘に局所麻酔薬と炎症を抑える強力な薬(ステロイド剤)を注入することで改善することがあります。
ただし複数回行うとステロイドの副作用によって細菌感染を起こしたり、腱が弱くなったりするので、通常3回程度まで行って、改善がなければ手術を検討します。
手術
局所麻酔を行った後、皮膚を1㎝ほど小さく切開し、皮下の脂肪や神経、血管などをよけながら腱鞘を丸出しにします。腱を傷つけないように保護した状態で腱鞘を縦に切り開きます。こうすることで腱が引っかからないようになります。
「腱鞘は切り開いてしまって大丈夫なんですか?」と聞かれますが、全く問題ありません。
10分ほどで終わる簡単な手術ではありますが、皮膚を切開する手のひらには汗腺が多いため蒸れやすく、日常生活で汚れやすいので、手術後に細菌感染する可能性があります。
また神経や血管をきちんとよけられていないと、神経や血管を損傷して、しびれや出血などの合併症が起こる可能性もあります。
リスクを理解したうえで手術を受けるかどうかを判断してください。
個人的にはリスクが少なく、すぐに治療効果が感じられる良い手術だと感じています。
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