拘縮とは
麻痺や手足のケガ、寝たきりなどが原因で体を動かさない状態が続くと、関節はカチカチに固まって曲げ伸ばしが困難になってしまいます。
このような状態を拘縮(こうしゅく)と呼びます。
「拘」という漢字は、手と、句(=鉤(コウ)。かぎ)から成り、手を鉤(かぎ)のように使って、物をひっかけとどめる意を表します。鉤とは先の曲がった物をひっかける金属製の器具のことです。ピーターパンに出てくるフック船長の義手が鉤です。
拘縮は動かさない時間が長ければ長いほど進行していきます。
最終的には関節が全く曲がらなくなり棒のようになってしまうため、思うように体を使うことができず支障をきたします。
この記事を読めば、拘縮がどのようにして起こるのかを理解し、拘縮に対する予防や治療を知ることができます。
拘縮が起こる状況
整形外科領域では骨や関節などの手術を行ったあと、リハビリテーションを怠ると拘縮をおこしてしまい、手術がうまくいっても障害を残すことになります。
特に手や腕の手術後は拘縮が起こりやすいので注意が必要です。
また神経が損傷され麻痺や痛みが出たことで動かさない状態が続いても拘縮が起こります。
脳神経領域の病気でも、麻痺や神経障害の影響で関節をしっかり動かせない状態が続くことで拘縮が起こります。
他にもメンタルの問題で体を動かさないでいることで拘縮を起こしてしまう場合もあります。
このように拘縮はとても起こりやすいです。
ではどのようにして拘縮が起こるのでしょうか?
拘縮が起こるメカニズム
関節をしっかり動かすことができないと、関節の周りに十分な血液が流れなくなります。
血液が流れなくなると、関節を構成する軟骨や腱、靭帯(じんたい)、筋肉などに酸素や栄養が届かなくなります。
するとコラーゲンの代謝がうまくいかなくなります。コラーゲンとは繊維状のタンパク質で弾力性に関係します。主に皮膚・血管・靭帯・腱・軟骨などに含まれています。
コラーゲンは動きが加わることでその場に適した状態にフィットするように作られます。
柔軟体操やストレッチを続けると体が柔らかくなるのは、伸ばした状態にフィットするようコラーゲンが作られるためです。
逆に柔軟体操やストレッチをしないと体が硬くなるのは、動かさない状態にフィットするようコラーゲンが作られるためです。
動かさない状態が高度になると拘縮が起こります。
コラーゲンはケガや手術、感染などによって炎症を起こしたり、血流が悪くなると硬くなります。硬くなる状態を線維化といいます。
もし線維化したとしても、関節をしっかり動かしておけば、新たに作られるコラーゲンは軟らかいものになり拘縮は起こりません。
しかし動かさない状態が続くとコラーゲンはさらに密で硬い状態に変化してしまいます。さらに水分やプロテオグリカンが減少して硬くなっていきます。プロテオグリカンとは糖とタンパク質が結合したもので保水力が高く細胞を保護したり細胞同士をつなぎとめるセメントのような役割をする物質です。
その結果、関節を支える靭帯や腱の弾力性は失われ硬くなり、拘縮を起こしてしまいます。
また筋肉も関節をしっかり曲げ伸ばししていないと、タンパク質が作られず筋肉が萎縮してしまいます。筋肉の萎縮も拘縮に拍車をかけます。
関節そのものにも変化が起こります。関節内に脂肪が増え軟骨の性質が変化して滑らかに動かせなくなります。あまりにも関節に負担がかからないと骨にまで影響が及んで骨粗しょう症になってしまいます。
拘縮の予防
拘縮は一度完成してしまうと治すことが困難です。
そのため予防が最も大切です。
予防するには関節を動かすしかありません。
ケガや麻痺などで自分の力で動かせない状態になった時点ですぐに反対の手や他の人の手によって動かしていくことが重要です。
自分ではどうしても加減してしまうので他の人にやってもらう方がよいでしょう。
可能であれば作業療法士や理学療法士などのリハビリテーションの専門家や、柔道整復師(整骨院、接骨院の先生)に関節を動かしてもらうようにしてください。
拘縮の治療
拘縮が生じてしまった場合はリハビリテーション専門家や柔道整復師にお願いするようにしましょう。
痛みが出ない範囲で動かすだけでは治療は困難です。とはいえあまりに痛みが出るところまで動かせば関節を動かすことに拒否反応を示してしまい、かえって逆効果です。
ちょっとつらいぐらいの痛みの範囲で最大限まで曲げ伸ばしできるところまで関節を動かし、その位置をしばらくキープすることを繰り返すのがポイントとなります。
温めることで関節周囲の血流が増加して関節が柔らかくなるので、動かす前にホットパックなどで温めておくと効果的です。
運動による治療が困難で生活するうえで支障をきたつ場合は手術を検討します。
手術方法としては靭帯や腱などを周りから剥がして動きやすくさせたり、縮んだ腱や靭帯を伸ばしたりします。ただ手術をすることでさらに硬さを増してしまうこともあるので、よく考えたうえで判断する必要があります。
拘縮は一度なってしまうと治療が困難なので、とのかく予防と早期からの運動治療が重要となります。
僕が医師になった2004年ころは手術後は絶対安静が原則でした。
しかし安静にすることで拘縮をはじめ様々な問題が起こることが分かってきました。
今では手術翌日からリハビリテーションを始めるのが当たり前になっています。
脳の病気や脊髄の病気で麻痺が出た場合も同様です。早期からリハビリテーションを行うことで後遺症を軽減できることが分かってきたので、すぐにリハビリテーションを開始するようになっています。
残念ながらそれでも拘縮は起きてしまうことがあります。
その際は拘縮が進行しないようにすることや拘縮のせいで起こる二次的な問題(たとえば指の間が蒸れて皮膚トラブルが起こるなど)を防ぐことが重要です。
指の二次的な問題を防ぐために、ペディキュアを塗る際に足の指を広げる軟らかい素材のクッションを使うのがお勧めです。
他にも手の拘縮用のグッズもあったりするので色々試して合うものを見つけてください。
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