【医師解説】5分でわかる植毛

植毛には大きく2種類

脱毛症に対する治療のひとつに植毛があります。

植毛には自分の毛を使うものと、人工の毛を使うものがあります。

人工の毛は過去に多くのトラブルが報告されており、米国では食品医薬品局(FDA)は人工毛自体を有害器具として指定し人工毛の使用を事実上禁じています

いっぽう自分の毛を使う自毛植毛は男女ともに推奨されており、特に男性ではお勧めの治療法となっています。

少し古いデータになりますが、2015 年度において世界全体で 397,048 件(男性 84.7%, 女性 15.3%)の自毛植毛術が実施されています。

Beehnerによると自毛植毛術は 82.5%以上という高い生着率が得られると著書で述べています。

日本皮膚科学会のガイドラインによると、国内外における自毛植毛術の膨大な診療実績を考慮し,フィナステリド及びデュタステリド内服やミノキシジル外用による効果が十分でなく他に手段がない状況において、十分な経験と技術を有する医師が施術する場合に限り、男性型脱毛症には自毛植毛術を行うよう勧め、女性型脱毛症には行ってもよいこととしています。ちなみに人工毛植毛術は原則行うべきではないとしています。

自毛植毛術にはいろいろな種類があります。

遊離毛根移植法

毛根移植というのは、脱毛になっていない頭の横側(側頭部)や後頭部から頭皮を採取し、脱毛しているところに移植する方法です

手術の直前に採取する頭皮部分の髪の毛を短く切り、移植片を切り出しやすくします。

採取する頭皮の移植片は、脱毛部分の大きさや形によって色々なものが用いられます。

大きな丸い形や細長いスリットと呼ばれる形、ストリップグラフトと呼ばれる束状のものなどがあります。

数ヶ月間間隔で6~7回の手術を行うので、治療期間は2年程かかります。期間は必要な移植毛の本数は希望する状態や髪質によって変わります。

一回の手術で移植される毛は、大きな移植片で約50か所程です。

最近では小さい移植片を用いるミニグラフトマイクログラフトと言われる方法が主流です。

ミニグラフトとは 移植片を2~3本の毛根が含まれている大きさに裁断し移植する方法です。

マイクログラフトは移植片に1本の毛根が含まれている大きさに裁断し移植する方法です。

約700個の移植片を移植するため手間はかかります。

しかしこの方法であれば、採取する頭皮は幅1~2cmで長さが7~10cmほどですむため、頭皮を取り出したあと頭皮を寄せて縫い合わせることができるます。つまり採取したところがハゲた状態になる心配がなく目立たないわけです。

現在ではほとんどの方が、ミニグラフトやマイクログラフトを行っています。

実際の流れとしては、手術室で頭皮を後頭部や側頭部から幅1~2cm長さが7~10cmほど採取し縫い合わせた後、いったん退室します。

頭皮片を細かく裁断しミニグラフトまたはマイクログラフトが完成したら、改めて手術室に入室します。

メスや針あるいは特殊に作られたトレパンという器具(中空パイプで一方の先端が刃になっているもの)を使って移植片を脱毛部の頭皮に植え込んでいきます。

頭皮の血行を保存するために移植片の間隔は1~2mm程度の間隔をあけながら植えていきます。

自然な毛流や毛生え際の形を考慮して移植するのに多少の技術を要しますが、比較的難易度の低い治療です。

ティシュエキスパンダー法

ティシュエキスパンダー法とは、日本語に訳すと組織拡大法となります。

まずはじめにシリコン製の水風船のようなものを、頭皮と頭蓋骨の間に移植します。

その後、水風船の中に1週間に1度の割合で生理食塩水を注入していきます。

すると頭皮が少しずつ伸ばされていきます。頭皮を伸ばすため組織拡大というネーミングがついています。

頭皮が十分に伸びたら、移植片として切り出して移植を行います。

有茎皮弁法

前述した遊離毛根移植法では、頭皮をいったん切り離して(遊離して)バラバラに裁断したのち移植します。

有茎皮弁法の場合、移植する頭皮を遊離させずに一部を残したまま脱毛部に移動させます。

移植片を遊離しないので血流が保たれ、 数千本の毛を一気に移植することが可能という長所がありますが、毛流が正常とは異なる流れになり、手術を受けたのが分かりやすいのが欠点です。

欧米系やアフリカ系の人たちのように、柔らかかったり縮れた毛の場合あまり問題になりません。しかし日本人のように黒髪でストレートな毛の場合、仕上がりに問題があります。

遊離皮弁法

皮弁移植法の利点を残しながら正常な毛流を再現するために編み出された方法です。

片側の側頭部から頭皮を採取したのち、血管を対側の浅側頭動静脈に手術用顕微鏡を用いて吻合してから移植する方法です。

この方法であれば、前額部毛生え際に数千本の毛を正常な毛流で再現することができます。段落

ただし高度な技術が必要なため、行える医師が限られていることや、手術時間が5~6時間かかるため全身麻酔となるといった欠点があります。

禿髪部切除法

脱毛している皮膚を切り取る手術です。他の植毛法を補助する目的として用いるのであればよいのですが、この方法単体で治療することは困難なためほとんど行われません。