介護の原因サルコペニア

はじめに

2019年の国民生活基礎調査によると、要支援認定になった原 因 と し て 多 い 疾 患 は、1 位 が「 関節疾患 」で18.9%、2 位は「高齢による衰弱」で 16.1%、3 位は「骨折・転倒」で 14.2%でした。

関節疾患と骨折・転倒は共に筋力低下が関係しており、この 2 つを合わせると筋力低下が要支援認定者における原因の 33.1%となります。

つまり要支援になった人のうち、3 人に 1 人が筋力低下が原因ということになります。

筋力が低下すると、介護が必要となる可能性が高くなることは明らかです。

今回は介護が必要になる主な原因である筋力低下についてお話します。

この記事を読めば、介護予防の方法を知ることができ、転倒や寝たきりを予防できます。

サルコペニアとは

老化に伴う筋力の低下は体力や活動性を大きく制限させます。

また転倒の危険性も高くなり、骨折や寝たきりの原因にもなります。

1989 年にRosenberg によって「加齢による筋肉量減少」を意味する用語として、ギリシア語で「筋肉」を意味するサルコ(sarco)と「減少・消失」を意味するペニアとを合わせた造語である「サルコペニア(sarcopenia)」という言葉が提唱されました。

現在,サルコペニアは

転倒、骨折、身体機能低下、死亡などの健康障害の危険性が高まった進行性かつ全身性の骨格筋疾患

と定義されています。

サルコペニアに関して、 2010 年に欧州の Europian Working Group onSarcopenia in Older People(EWGOSP)から,加齢によるサルコペニアの定義と診断基準の統一見解が報告されました。

続いて,ヨーロッパ人とアジア人では体格や身体機能の違いがあることから,2014 年にアジアのワーキンググループの Asian WorkingGroup for Sarcopenia(AWGS)によってアジア人向けのサルコペニアの診断基準が作られました。

はじめのうちサルコペニアとは筋肉量の喪失を意味していましたが、健康障害の予測には筋肉量よりも筋力を指標にする方が優れていることが明らかとなったので、 2018年において発表された EWGOSP2 におけるサルコペニアの診断基準においては,筋力低下があればその時点でサルコペニア疑いとして評価と介入を開始することを推奨しています。

EWGOSP2 ではサルコペニアを早期に発見するための自己記入式質問表 SARC-Fを用いることが推奨されています。

SARC-F
医学書院 医学会新聞 「サルコペニアとフレイル,評価と治療法は?」より引用https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2017/PA03235_05

当初は4 点以上でサルコペニアの可能性ありとしていましたが、最近は点数が 1 点以上の場合にはサルコペニアを疑うようになっています。

筋力、握力、椅子立ち上がりテストなどの評価を行い、低下を認めたらサルコペニアのを疑います。

サルコペニアの予防・治療

サルコペニアに関して診断基準が整ったことで、今後は予防・治療法の開発が期待されます。

現時点ではサルコペニアにおける治療薬は存在しませんが、リハビリテーションによる筋力、筋量の維持、増加は可能なので、サルコペニアの早期診断によるリハビリテーション開始が重要となります。

成長ホルモンやテストステロンなどのホルモンは、筋肉量を増加させます。これらのホルモンは運動によって分泌が増えます。特にスクワットなどの筋肉量の多い下肢のリハビリテーションが有効です。

栄養も重要で、タンパク質ビタミンDがサルコペニア予防に有効だと考えられています。

補給量などはまだ不明な点が多いですが、現時点では合併症に問題がなければタンパク質は1日1.2~1.5 g/kg、ビタミンDは800 IUの補給を目安にするといいでしょう。

将来的にはサルコペニア発症に関するメカニズムが解明されることで、治療薬が開発されることを期待したいです。