はじめに
あなたもご存じのように日本は超高齢社会を迎え、医療を必要としている患者さんの多くがご高齢者になっています。
そのため高齢者の特性を考慮し、ADL (activities of daily living=日常生活の活動性)や QOL(quality of life=生活の質)が低下しないよう予防を行うことが重要視されています。
高齢者は体力が低下しており、徐々に介護が必要な状態になります。
医療業界では、健康と介護の中間的な状態としてフレイルという概念が注目を集めています。
今回はフレイルについて解説します。
この記事を読めば、介護予防について理解できます。
フレイルとは
フレイルとは虚弱を意味するfrailtyからきています。
フレイルは
加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され,心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により,生活機能の維持向上が可能な状態像
と定義されています。
つまりフレイルに陥った方を早期に発見して適切な介入をすれば、健康な状態に戻ることができます。
フレイルの評価法
- 体重減少
- 主観的活力低下
- 握力の低下
- 歩行速度の低下
- 活動度の低下
の 5 項目のうち 3 項目以上当てはまればフレイルと考えます。
さらに簡便な尺度として
- 体重減少
- 起立能力の低下
- 活力の低下
の 3 項目のうち 2 項目以上当てはまればフレイルとするものもあります。
いずれの評価法も、将来の転倒や身体機能障害、骨折、寿命とも関連することが証明されています。
フレイルを予防・治療するために開発された「基本チェックリスト」があります。
No. | 質問事項 | | |
---|---|---|---|
1 | バスや電車で外出していますか | 0. はい | 1. いいえ |
2 | 日用品の買い物をしていますか | 0. はい | 1. いいえ |
3 | 預貯金の出し入れをしていますか | 0. はい | 1. いいえ |
4 | 友人の家を訪ねていますか | 0. はい | 1. いいえ |
5 | 家族や友人の相談にのっていますか | 0. はい | 1. いいえ |
6 | 階段や手すりや壁をつたわらずに昇っていますか | 0. はい | 1. いいえ |
7 | 椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか | 0. はい | 1. いいえ |
8 | 15分位続けて歩いていますか | 0. はい | 1. いいえ |
9 | この1年間に転んだことがありますか | 1. はい | 0. いいえ |
10 | 転倒に関する不安は大きいですか | 1. はい | 0. いいえ |
11 | 6ヶ月間で2~3㎏以上の体重減少がありましたか | 1. はい | 0. いいえ |
12 | 身長 ㎝ 体重 ㎏ (BMI= )(注) | ||
13 | 半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか | 1. はい | 0. いいえ |
14 | お茶や汁物等でむせることがありますか | 1. はい | 0. いいえ |
15 | 口の渇きが気になりますか | 1. はい | 0. いいえ |
16 | 週に1回以上は外出していますか | 0. はい | 1. いいえ |
17 | 昨年と比べて外出の回数が減っていますか | 1. はい | 0. いいえ |
18 | 周りの人から「いつもと同じことを聞く」などの物忘れがあるといわれますか | 1. はい | 0. いいえ |
19 | 自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか | 0. はい | 1. いいえ |
20 | 今日が何月何日かわからない時がありますか | 1. はい | 0. いいえ |
21 | (ここ2週間)毎日の生活に充実感がない | 1. はい | 0. いいえ |
22 | (ここ2週間)これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった | 1. はい | 0. いいえ |
23 | (ここ2週間)以前は楽にできていたことが今はおっくうに感じられる | 1. はい | 0. いいえ |
24 | (ここ2週間)自分が役に立つ人間だと思えない | 1. はい | 0. いいえ |
25 | (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする | 1. はい | 0. いいえ |
(注)BMI=体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)が18.5未満の場合に該当とする
- No.1-20の合計が10点以上
- No.6-10(運動機能)の合計が3点以上
- No.11-12(栄養)の合計が2点
- No.13-15(口腔機能)の合計が2点以上
だと介護が必要となる可能性があります。さらに
- No.16が1点(閉じこもり)
- No.18-20が1点以上(認知機能)
- No.21-25が2点以上(抑うつ)
の場合、「閉じこもり予防・支援」、「認知症予防・支援」、「うつ予防・支援」を考慮する必要があります。
フレイル予防
フレイルを予防するには、運動と栄養、心理・社会面へのアプローチが必要です。
運動
フレイル診療ガイドでは、運動は歩行、筋力、身体運動機能、日常生活活動度を改善しフレイルの進行を予防するということで推奨されています。
フレイルの発症・進行を予防するための運動プログラムとしては、レジスタンス運動、バランストレーニング、機能的トレーニングなどを組み合わせるプログラムが推奨されています。
レジスタンス運動とは、筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動です。
レジスタンスとは抵抗を意味するResistanceからきています。
具体的には自重トレーニング(スクワットなど)やチューブトレーニング、ダンベルなどです。
バランストレーニングとは片足立ちやバランスボール、バランスボードなどを使ったトレーニングです。
機能的トレーニングとは日常生活動作をスムーズに行うための機能を向上させるためのトレーニングです。
これらの運動を複合的に行うことでフレイルを予防できます。
栄養
日本人高齢女性を対象とした横断研究では、1日あたりのたんぱく質摂取量が約70g以上であるとフレイルのリスクが低くなることが報告されています。
肉や魚はたんぱく質が豊富な食品であり、たんぱく質の摂取量が多いほどフレイルのリスクが低下します。
また野菜や果物についても、これらを多く摂取するほどフレイルのリスクを抑制することが報告されています。
心理・社会面
認知症や不安、うつなどがフレイルに関係します。
認知機能の低下は、活動量低下・歩行速度の低下・筋力低下との関連が認められています。
フレイルになると4倍うつ病になりやすく、逆にうつ病の存在は4倍フレイルになりやすくなります。
また孤食や孤立、閉じこもりなど社会的な要因もフレイルの原因となります。
心理・社会面へのアプローチは課題が多く介入が難しいです。
精神科やカウンセラーによる介入や、地域での取り組みなど多面的な支援が予防には必要です。
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