エイズの治療【医師解説】

エイズになっても健康を維持できる!

HIVというウイルスが血液や体液を通して感染すると、免疫細胞の一種であるCD4陽性リンパ球が破壊され免疫力が急激に低下します。

HIV感染した結果、免疫力が低下した状態をエイズといいます。

詳しくはこちら↓

治癒は今のところ不可能と考えられていますが、薬によってHIVの数を減らし、免疫に関わるCD4陽性細胞数を劇的に増やすことで、健康で活動的な生活を続けることができるようになっています。

今回はエイズの治療について解説します。

こんな方にオススメの記事です

エイズと診断され治療を受けることになった

エイズになったらどんな治療があるのか知りたい

この記事を読めば、エイズの治療について理解することができます

エイズの治療(概要)

エイズの治療には薬が用いられます。

使われる薬としては

  • 抗レトロウイルス薬
  • 日和見感染症の予防薬

があります。

HIVに感染したにも関わらず治療を行わないと、様々な感染症やガンの発症によって命を失う可能性があるため、感染が分かった時点で抗レトロウイルス薬による治療が勧められます。

早期に感染を発見治療薬を開始することで、エイズを発病せず健康な状態を維持できる可能性が高くなります。

早期発見におすすめです

治療薬を服用することで、体内のHIVの量が検出不能なレベルまで減少させることができます。

しかしウイルスを体内から完全に排除することはできません。

そこで治療の目標は治癒ではなく寛解を目指します。

寛解とは、完全に治ったわけではないけれど、症状がない状態のことです

具体的には以下の通りです。

  • HIVが検出不能な量までウイルスを減らす
  • CD4陽性細胞数を正常値に回復させる

寛解に至ったからといって薬を中止してしまうと、すぐにHIVが増加し、CD4陽性リンパ球数が低下してしまいます。

そのため薬は生涯にわたって服用する必要があります。

また薬の服用をさぼると、HIVが薬への耐性を持ってしまいます。

そうなると薬の効果が失われてしまいます。

HIV治療薬は指示通りに飲むことが重要です

エイズの治療(詳細)

エイズの治療薬は目的によって

  • 抗レトロウイルス薬
  • 日和見感染の治療薬

の2つに分類されます。

それぞれについて詳しく解説します。

抗レトロウイルス薬

HIVはレトロウイルスに分類されます。

レトロウイルスとは

大半の生物はDNAからRNAを複製します。

しかしHIVのようにRNAとして遺伝情報を持っているウイルスは、普通とは逆にRNAからDNAを複製します。

このようにRNAからDNAを複製するウイルスを、「逆」を意味するレトロを接頭語にしてレトロウイルスと呼びます。

レトロウイルスに対する薬を抗レトロウイルス薬といいます。

抗レトロウイルス薬には以下のようなものがあります。

逆転写酵素阻害薬

HIVのRNAをDNAに変換する逆転写酵素という物質のはたらきを阻害する薬です。このタイプの薬はさらに、核酸系(ヌクレオシド系まはたヌクレオチド系)・非核酸系に分かれます。

プロテアーゼ阻害薬

プロテアーゼというタンパク質を活性化する物質の働きを阻害します。その結果、HIVは成熟できず、新しい細胞に感染できなくなります。

膜融合阻害薬(CCR-5阻害薬)

HIVが免疫細胞内に侵入できないようにします。HIVが人間の細胞に侵入するのに必要なCCR-5受容体をブロックすることで、HIVが人の細胞内に侵入できないようにします。

Post-attachment inhibitorという薬もHIVが細胞に侵入するのを防ぎますが、膜融合阻害薬とは異なる方法で作用します。これらの阻害薬は、他の薬で効果がないHIV感染症に使用されます。

インテグラーゼ阻害薬

HIVのDNAが、人のDNAに組み込まれるのを阻害します。

これらの薬は、細胞内でのHIVの複製を阻止し、数日から数週間で血液中のHIVの量を劇的に減らします。

日和見感染(ひよりみかんせん)の治療薬

免疫力が低下することで、普通では害にならないような病原菌によって感染症状が出ることを日和見感染いいます。

抗がん剤や免疫抑制剤の副作用や加齢によって免疫力が低下する際に起こることが多いです。

僕も抗がん剤治療中は常に日和見感染を起こして熱を出していました

HIVに感染しエイズを発病してしまうと、免疫力が低下するため日和見感染を起こしやすくなります。

そこでHIVに対する薬と併用して、日和見感染に対する薬を服用する必要があります。

CD4陽性細胞数が血液1マイクロリットル当たり<200個

 ニューモシスチス肺炎の予防と、脳に損傷を起こすことがある トキソプラズマ症の予防のために、抗菌薬のトリメトプリム-スルファメトキサゾールの合剤が処方されます。

CD4陽性細胞数が血液1マイクロリットル当たり<50個

マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス症を予防するために、アジスロマイシンを週1回、またはクラリスロマイシンを毎日服用します。これらの薬を使用できない場合はリファブチンを投与します。

クリプトコッカス髄膜炎、 肺炎、 鵞口瘡、 腟のカンジダ感染症が繰り返し起こる場合は、抗真菌薬のフルコナゾールを長期間服用します

単純ヘルペス感染症が口、唇、性器、直腸に繰り返し起こる場合は、抗ウイルス薬(アシクロビルなど)による長期治療が必要になることがあります。

日本で認可されている抗レトロウイルス薬

現在日本で認可されている抗レトロウイルス薬は以下の通りです。

(※厚生労働省から2022年3月発行された抗HIV治療ガイドラインから転用しております。)

ヌクレオシド系・ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)

一般名商品名略称承認時期
ジドブジンレトロビルカプセルAZT(またはZDV)1987年11月
ラミブジンエピビル錠3TC1997年2月
ジドブジンとラミブジンの合剤コンビビル錠AZT/3TC(またはCBV)1999年6月
アバカビルザイアジェン錠ABC1999年9月
テノホビルジソプロキシルフマル酸塩ビリアード錠TDF2004年4月
アバカビルとラミブジンの合剤エプジコム錠ABC/3TC(またはEPZ)2005年1月
エムトリシタビンエムトリバカプセルFTC2005年4月
エムトリシタビンとテノホビルジソプロキシルフマル酸塩の合剤ツルバダ錠TDF/FTC(またはTVD)2005年4月
エムトリシタビンとテノホビルアラフェナミドの合剤デシコビ配合錠LT・HTTAF/FTC(またはDVY)2016年12月

非ヌクレオシド/ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)

一般名商品名略称承認時期
ネビラピンビラミューン錠NVP1998年12月
エファビレンツストックリン錠EFV1999年9月
エトラビリンインテレンス錠ETR2009年1月
リルピビリンエジュラント錠RPV2012年5月
リルピビリン、エムトリシタビン、テノホビルアラフェナミドの合剤オデフシイ配合錠RPV/TAF/FTC
(またはODF)
2018年8月
ドラビリンピフェルトロ錠DOR2020年1月

プロテアーゼ阻害剤(PI)

一般名商品名略称承認時期
リトナビルノービア錠rtv2011年2月
ロピナビル(少量リトナビル含有)カレトラ錠/リキッドLPV/rtv2000年12月
アタザナビルレイアタッツカプセルATV2004年1月
ホスアンプレナビルレクシヴァ錠FPV2005年1月
ダルナビルプリジスタナイーブ錠(800mg)DRV2013年11月
プリジスタ錠(600mg)2015年5月
ダルナビルとコビシスタットの合剤プレジコビックス配合錠DRV/cobi(またはPCX)2016年11月
ダルナビル、コビシスタット、エムトリシタビン、テノホビルアラフェナミドの合剤シムツーザ配合錠DRV/cobi/TAF/FTC(またはSMT)2019年6月

インテグラーゼ阻害剤(INSTI)

一般名商品名略称承認時期
ラルテグラビルアイセントレス400mg錠RAL2008年6月
アイセントレス600mg錠2018年5月
エルビテグラビル、エムトリシタビン、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩、コビシスタットの合剤スタリビルド配合錠EVG/cobi/TDF/FTC(またはSTB)2013年5月
エルビテグラビル、エムトリシタビン、テノホビルアラフェナミド、コビシスタットの合剤ゲンボイヤ配合錠EVG/cobi/TAF/FTC(またはGEN)2016年6月
ドルテグラビルテビケイ錠DTG2014年3月
ドルテグラビル、アバカビル、ラミブジンの合剤トリーメク配合錠DTG/ABC/3TC(またはTRI)2015年3月
ドルテグラビル、リルピビリンの合剤ジャルカ配合錠DTG/RPV2018年11月
注:抗HIV薬既治療患者に使用
ビクテグラビル、エムトリシタビン、テノホビルアラフェナミドの合剤ビクタルビ配合錠BIC/TAF/FTC(またはBVY)2019年3月
ドルテグラビルとラミブジンの合剤ドウベイト配合錠DTG/3TC2020年1月

膜融合阻害薬(CCR-5阻害薬)

一般名商品名略称承認時期
マラビロクシーエルセントリ錠MVC2009年1月

抗レトロウイルス薬の投与法

抗レトロウイルス薬は1種類だけ投与しても効果が期待できません。

そこで2~3種類の併用が行われています。

現時点の初回治療の組み合わせとして推奨されるのは

  • NRTI 2剤+INSTI 1剤
  • NRTI 1剤(3TC)+INSTI 1剤(DTG)
  • NRTI 2剤+rtvまたはcobiを含むPI合剤 1剤
  • NRTI 2剤+NNRTI 1剤

のいずれかとなっています。

数種類が一緒になった合剤も増えており、内服しやすくなっています。

一般的に最初に使われる組み合わせには以下のようなものがあります。

抗HIV治療ガイドラインから転用

1日1~2錠内服するだけでHIVを抑えこむことができるようになっています。

まとめ:治療効果を高めるために

近年の抗 HIV 薬は強力なのに副作用が少なくなっています。

治療効果を上げるには、早い時期から治療を開始することが世界的に推奨されています。

そのためには早期発見が重要となります。

早期発見するために、自宅で簡単にできる検査キットを活用するのがお勧めです。